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It's Not About the IP

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Perl商標で学ぶ商標制度の基本

Perl商標とかエグい

Perl」の商標登録を、特にオーソライズされたわけじゃない人が勝手に取っちゃった、ということが起きました。エグいですね。
twitterとかブックマークとか見てると、まあそもそも何が起きてるのかよくわからんとか、これをもって「これだから知財(商標)制度は・・・(クソなんだ)」みたいな風に思っちゃってる人とかいるみたいです。その感覚はひょっとしたら半分は正しいかも知れないけど、半分は間違っていると思うので、Perl商標に絡めながら商標制度というもんを解説してみることにしました。

商標法はこんなことを目指している

商標制度というのは、商品とかに文字やマーク(商標)を付けて、その商標によって商品を他の商品と区別して買い物できるようにしたら便利だよね(、っていうかできないと困るよね)、ということで、そういう商標の識別力を保護しようとする制度です。

事業者が識別力のある商標を安心して継続して使うことができれば、品質の良い商品を提供し続けることによって、お客さんの数やリピートの増加が期待できます。一方、消費者にとっては、気に入った商品と同じような商品が欲しいとき、商標を目印にして色んな商品の中から特定の商品を識別して、安心して買い物ができます。というわけで事業者は良い商品を安定して提供しようとする一方、消費者は安心して消費をすると、産業が発達して、クニは潤います。わーいわーい、良かったね。商標法1条は、こういうことをいってます。

商標法 第一条
 この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。

識別力を判断したい

さあ、それでは識別力ある商標を保護したいわけですが、識別力というのは主観的な話です。例えば私はいまだにマナさんとカナさんの区別がつきませんが、ファンの方にとっては全然違うのでしょう、そうでしょう。

2月のわた雪

2月のわた雪

というわけでマナさんとカナさんの区別がつくかどうかを一般的な消費者のそれぞれにいちいちインタビューしてまわって国会にかけて法律をつくってるわけにもいきませんから、できるだけ客観的に、機械的に、「識別力があるかどうか」を画一的に決める判断基準をつくりたいところです。そこで商標法は、識別力の有無を、商標商品の関係において判断する、と考えることにしています。例えば、スーパーにいろんな出所からの商品「みかん」がたくさん並んでいるとして、全部の袋に商標「みかん」が付されていても、その中から特定の出所のみかんを識別することはできません。しかし、例えばその中に商標「アルマジロ」が付されている一群の商品「みかん」があれば、それは他のたくさんのみかんと区別できるでしょう。もちろん、商品「アルマジロ」について商標「アルマジロ」を付す場合には識別力はないでしょうし、商品「アルマジロ」について商標「みかん」を付す場合には識別力はあるでしょう(アルマジロが商品として売ってるのかどうかは知らない)。だから、商品との関係を考慮せずに、商標「みかん」は登録可能か?を考えることには商標法的にはあまり意味がありません。

こういう商標と商品との関係を考慮しつつ、商標法3条は、商標に根本的な識別力がないとするダメな6パターンの例を示しています。これのいずれかに該当する場合には、登録を受けることはできません。

商標法 第三条
 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一  その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
二  その商品又は役務について慣用されている商標
三  その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
四  ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五  極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
六  前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標
2  前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

それでは、今回のPerl商標に関係あるかもしれないところを任意にピックアップしてみます。

まず、1号。

一  その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

これはまさに商品「みかん」に商標「みかん」はダメ、という話ですね。で、Perlですが、Perlが普通名称か?「日本語」と同じような言語名か?というとちょっとそうは言い切れないかもなと思います。「Perl」(perl)といっても、ある意味ではライブラリの集合であり、一種のフレームワーク(プログラム)であり、CPUを走らせるためにCで作られたソフトウェアの固有名称であるともいえるんじゃないかと思います。ちなみに、例えば「JAVA」がサン・マイクロシステムズ登録商標であることは特許業界人には有名な話ですが、商標登録要件的な意味でこれにそんなに文句がある人はいないんじゃないでしょうか。もっと抽象的な言語としての意味で考えれば言語といえば言語ですが、その意味ではそもそも「商品に付す」ようなものではないので、ちょっと次元の違う話になってくるんじゃないかと思います。

というわけで、じゃあ、3号。

三  その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

これはけっこうあやしいんじゃないでしょうか。Perlでできたプログラム、またはPerl実行環境プログラムに商標「Perl」を付す。これはなんか商品「みかんジュース」に商標「みかん」を付すみたいな雰囲気です。そのままやんけと思いますね。該当し得るんじゃないでしょうか。

もうちょっと具体的に判断したい。4条。

というわけでまあ他にも気になるところもあるかも知れませんが、とにかく、3条をクリアするととりあえずは識別力があると考えます。でもこれだけでは微妙な感じです。例えば、商品「みかん」について菅直人さんの顔写真をくっつけて売っていれば、識別力はあるかもしれませんが、なんか「菅直人も公認」みたいなイメージを消費者に与えかねませんし、勝手にスーパーに顔写真並べられても菅直人さんにとっては迷惑な話です。

がんばれ菅直人

がんばれ菅直人

そこで、いろいろ個別の状況を考えて(私益と公益のバランスを考慮して)、こんなときはダメですよ、というのをさらに商標法の第4条で例示しています。これは1号から19号まであるので条文の全部を転載しませんが、興味のある方はココとかで見てみてください。

それでは例によって、4条の規定から今回のPerl商標に関係あるかもしれないところをピックアップしてみます。
まず、7号。

商標法 第四条
 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
・・・

七  公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標

これはなんというか奥の手的な感じで、「他の条文でバシッとダメとはいえないけど、なんとなくダメ」というときはこれを適用します。まあ今回は、第三者がPerlを商標登録するとかどう考えてもおかしいだろという気がするので、該当し得るんじゃないでしょうか。

で、10号。

十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

これはいわゆる周知商標はダメという話で、既に世の中で広く使われている商標はダメ、という話です。ここで商標法は、商標の登録要件を考えるときに商品と商標の関係をみるという考え方に加えて、類似という概念を導入しています。他人の商標として既に周知であるものはダメですが、それに似てるのもダメ、ということです。例えば昔、「ロッテ」のビックリマンシールのニセモンで「ロッチ」というのがありましたが(しらない人はスルーの方向で)、「ロッチ」は、「ロッテ」といちおう識別できるといえますが、なんかすごく似てるのでこれもやっぱりダメ、ということです。今回はPerlそのままなので類似ではなく同一ですが、とにかく、Perlは既に世の中で広く使われていますから、該当し得るんじゃないでしょうか。

あと、11号。

十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

これは、既に登録されている商標と同じか、似てる(類似)のはダメという規定。その道の人がちょこっと調査すると、住友電気工業パナソニック電工が共有で権利を持っている、商品「電気溶接機、グラインダー、その他ほげほげ」についての商標「pearl」がでてくるみたいですね。商標「pearl」と商標「Perl」とは、商標「ロッテ」と商標「ロッチ」くらい似ていますね、類似ですね。さあ、それでは、商品が同一または類似なら、この11号に該当することになります。

ここはなかなか注目のポイントで、他の条文が該当するという場合には、例えば「第三者によるPerl商標の登録は公序良俗に反すること」(7号)や「Perlが周知であること」(10号)など、主観的な要素を証明する必要がでてきますが、「既に登録されていること」というのは特許庁がもってる原簿をみると客観的に証明できます。なので、これに該当するということになれば、証拠を揃えたりとかめんどくさい証明とかをしなくても、登録はダメですという認定ができることになります。

ここで、テラさんの登録商標Perl」は、3つの商品(役務)「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」、「電子計算機の貸与」、「電子計算機用プログラムの提供」についてされています。とある商標弁理士が「類似だね」と仰っていたのでおおーそうなのかー解決解決!とか思っていたのですが、他の弁理士から

という突っ込みがあったので解決じゃないみたいです。テラさんが商標「Perl」について指定する3つの商品のうち、全てが類似といえるわけじゃないみたいですね。

そんで、15号。

十五  他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)

10号や11号というのは、商標と商品の関係を考慮しつつ、商標と商品のいずれもが同一または類似の範囲内である場合にダメとする話でした。なので、商標と商品とのいずれかが類似じゃなければ10号や11号はクリアするのですね。例えば、マイクロソフト表計算ソフトで「Excel」(エクセル)ってありますけど、サーフィンとかのウェットスーツで「xcel」(エクセル)というブランドがあります。商標「Excel」(エクセル)と商標「xcel」(エクセル)とは類似だと思いますけど、商品「表計算ソフト」と商品「ウェットスーツ」は類似しないですよね。ウェットスーツに付された「xcel」のロゴをみてマイクロソフトがつくったと思う人はいないと思いますし、表計算ソフトをウェットスーツメーカがつくったと思う人はいないと思います。これに対し、例えばソニーのような巨大でいろいろやってて有名すぎる企業の商標は話が変わってきます。コンビニでソニーのロゴが入ったチョコレートが売られていたとして、ソニーはチョコレートも売ってるのかー、と思う人はいるかも知れません。ソニー本家が売ってるとは思わないまでも、ソニーとなんらかの資本関係にある人が売ってるのかな?くらいは思うかも知れません。というわけで、商標と商品の関係はさておいて紛らわしいのはダメ、というのが15号の規定です。で、Perlは有名すぎるからダメだよ、とはいい得るんじゃないでしょうかね。例えば、ちょっと前に「阪神優勝」という商標登録が話題になったことがありますが、あれはこの条文を根拠に無効になったようです。

あとは、16号。

十六  商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標

これも該当し得るんじゃないでしょうか。例えば、PHPでできたプログラムに商標「Perl」を付けていたらウソの表示になりますね。松坂牛を石垣牛と言って売るみたいな感じでしょうか。これはさっきの3条1項3号と裏表の関係にあるといえます。3条1項3号はPerlプログラムに商標「Perl」を付したらそのままなんでダメという話で、4条1項16号はPerlじゃないプログラムに商標「Perl」を付したらウソだからダメという話です。

最後の、19号も。

十九  他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)

この条文の注目ポイントは「不正の目的」というところで、例えば人の商標にあやかって儲けてやろうとか、人の使ってる商標を先に登録して売りつけてやろうとか、そういう目的でされた出願はダメですよという規定です。PerlというのはRubyとかあるので真珠的なものを連想しますが、真珠はpearlであり、Perlという言葉はL.Wallとその愉快な仲間たちの造語です。こういう造語を第三者が出願する場合には、「不正の目的」の蓋然性が高いと考えられることになります。これも該当し得るんじゃないでしょうか。

異議申し立て

というわけでテラさんのPerl商標にはざっとこの辺を理由とした拒絶理由がありそうですが、特許庁の審査ではこの辺には該当しないと判断されて登録されたようです。えっ、と思いますよね。私も思います。あほか、とも思います。

しかし特許庁の審査官も人の子です、間違いや勘違いもあるでしょう、そうでしょう。というわけで商標制度というのは、間違って登録された商標権をなくすための仕組みがいくつか用意されています。それが異議申し立て、無効審判、取消審判とかです。無効審判や取消審判というのは利害関係人だけができたり、他の要件が必要になってきたりするのですが、異議申し立てというのは、登録して公報の発行後、2ヶ月以内には誰でもできることになっていて、要するに、みんなー!これちょっととりあえず登録してみたんだけど、なんかおかしいかなー?おかしかったら教えてねー!という制度です。なので、上のどれかの条文に該当するからダメだと思うよーというのを特許庁に教えてあげると良いかも知れませんね。ただし、異議申し立てには若干おカネがかかります。まあ当事者の方がいろいろ動いておられるようなので、なるようになるんじゃないですかね。

というわけで、こんなことを踏まえながら今後の動向を生暖かく見守ってみると良いんじゃないでしょうか。
think 知財!!

see also;
・プログラミング言語"Perl"の商標登録について ←Japan Perl Association(JPA)コメント
・Perl Trademark in Japan ←JPA代表理事「lestrrat」さんコメント
・Perlの商標の件について業界の友人に聞いてみた ←今回の件に関する審査経緯の考察
・All your name are belong to Tetsuya Kitahata!? (lol) ←「御意見番」ダンコガイ
・北畠徹也氏による商標登録祭り 中間報告 ←Perl商標騒動を起こしている氏のこれまでの経緯を含めた全貌
・オープンソース・プログラマも知っておきたい商標のこと(その1)

今回のPerl商標に触れている弁理士のブログエントリ
・Perlなこと 名古屋の商標亭
・商標について誰もが知っていてもいい、2つ3つ。 「弁理」屋むだばなし
商標法
・商標法 条文
・(PDF)特許庁による3条、4条の解説(『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第18版〕』いわゆる「青本」の一部)
・【保存版】商標制度に関する基本の基本 栗ブログ(仮)