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It's Not About the IP

- IP(Intellectual Property), Computer Technology, Ocean Life, Triathlon, and more

特許技術者の憂鬱

無資格にとっては、耳が痛いハナシ。

面接ガイドラインの不思議(終) ――輸入品としての法律――

最初は何が言いたいのだかよくわからなかったのだけれど、最終回になって、コンプライアンスのハナシをしていたのか、と納得。正論だと思います。

特許明細書作成を代理するのは弁理士の独占業務ということになっていて、これに違反する行為(無権代理)は犯罪であり、刑事罰がかけられます。しかしながら、特許明細書作成のために必要なスキルは法律知識よりはむしろ技術の理解であり、弁理士試験に合格するために必要な知識は法律知識ですから、実務のための知識と資格とるための知識は別、ということになり、資格のない技術者が、弁理士ゴーストライター(特許技術者)として明細書を作成し、弁理士の名前で特許庁に提出して実質的に代理する。という状態が常態化しているのが現在の特許(出願)業界です。

まあなにを隠そう私もそのゴーストライターでありまして、はっきりいって「ギリギリのグレイ」ですが、しょうがないじゃん、というリクツが成り立つのもまた事実。なんでかっていうと、(技術を理解できる)弁理士が足りていないから。

これと似た状況と私が勝手に思っているのがちょっと前話題になった看護師、助産師の話で、横浜市瀬谷区の病院であった、助産師の資格のない看護師が、助産師の資格がないとやってはいけない内診とかをやっていたのがバレて捕まった事件。ちなみにこの病院、私の実家に近いとこにある病院で、高校の同級生なんかにはここで生まれたという人がいっぱいいて、なんか院長先生とかも感じの良い人みたいで地元ではかなり評判の良い病院です。ですが、捕まって、メディアはまあ例によって叩きまくり、医療犯罪者、腐敗した医療現場の実体!みたいに騒ぎまくったわけですが、これ、その後、どうなったかご存じですか?

そもそも全国的に助産師が足りてなくて、看護師が手伝わないと医療現場が回らないので、これ起訴したら大変なことになっちゃうので、不起訴。起訴猶予。となった。

なんだそれ、けっこう適当なんですね行政って、と思いましたが、特許の現場もこの意味においては同じような状態といえるでしょう。特許技術者が明細書かくのをやめちゃったら、特許行政は回らないから、摘発しない。一年前くらいかな?読売の社説で、「特許業界では無資格者が実質的に代理している場合があるらしいが、そのようなことは許されてはならない」とか書いていて、おっと、ついにガサ入れが始まるかぁ〜とちょっとワクワクしたんだけどいまんとこ特になにも起きてませんね。

ところで。

こういう状況を、本音と建前、理想と現実を分けて考える日本人の法意識から説明することはそれなりに妥当であるし、特に、特許業界の場合は、そのようなゴーストライターが表に出ない(出られない)のをいいことに安月給で使い回す賢い弁理士たちとの主従構造、既得権力構造(これがwin-winの関係なところがまたややこしい)から説明することもできるし、特許の場合は特に最近急成長している分野だから単純に制度インフラ、人インフラが追いついていないだけ、とも言えると思うけど、とにかく、この構造をコンプライアンスという視点からザクザク切ってしまうのは、なんというか、正論なんだけど、あまりにも正し過ぎる。

正論は人を惹き付けるのと同時に、みんな頑張ってるのに正しすぎる正論を叫ばれると正しいのはわかっちゃいるけどちょっともうちょっと待ってよ、と思うのはプログラマ時代のデスマーチで何度か経験したけれど、ツライもんなんですよ。

あーここちょっとうまいこと言ったな、デスマーチなんですねー日本の特許実務は。こういう状況をつくりたい、ここがゴールで、あるべき姿、というのは実はけっこうみんな具体的にイメージできてるんだけど、目の前の仕事がいっぱいいっぱいで、つーか時間足りねー、つーか人足りねー、つーかなんで管理職のPMがプログラムかいてんの?お前さわんなっつーの。みたいな?ちょっと違うか。

法律が正論というけれど、コンプライアンスとは、法典化された法律を遵守するに止まるものではなく、社会的要請に応えることである、と考えれば、無資格者が実質的な代理行為を行うべきでないのが正論であるとともに、それなくして特許行政は成り立たないから、やるべきだ、というのもまた正論なんですよ。

技術を理解するというのが数式やらなんやらがビロビロでてくる理系的な作業であるのに対して、明細書を書くというのはその技術を誤解のないように文章にするという文系的な作業ですから、(実はそこまで特別でもないのに)あまり近寄ろうとする人がいないので、特許明細書というもんをかける人が、絶対的に、この国には足りていない。そういった「足りなさ」をさしおいて、少なくとも、「最近合格して仕事がない弁理士は訴えればいい」と叫ぶのは、現段階では資格持ちと無資格者の格差を徒に広げることにしかならないでしょう。

と、いうことが負け犬の遠吠えに聞こえない程度には、私は、明細書かく修行もきっちりして、資格もきっちりとろうと思います。

で、資格とったらどうするかって?
決まってるじゃないですか、無資格の技術者こき使って儲けるんですよ。そうしないと特許行政が回りませんからね。