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勝手に特許明細書(はてなワールド)

特許技術者なりのハック

特許技術者なりのハックとして、勝手に特許明細書を書いてみてやろうと思いましたので書いてみました。題材は、はてなワールド。「はてなワールドの特徴」を発明提案書と想定します。出願書類まるごとかいてみようと思ったのですが、マジでかくとマジで丸二日以上かかってしまうので今回は特許請求の範囲だけ。

こんな感じかな

【書類名】特許請求の範囲
  【請求項1】
 ユーザの情報端末とネットワークを介して情報通信可能な情報サーバ装置であって、
 現実に存在する場所の地図画像を表す地図情報を記憶する地図情報記憶部と、
 前記ユーザに対応するアバター画像を表すアバター情報を記憶するアバター情報記憶部と、
 前記地図情報記憶部に記憶される前記地図情報が表す地図上に、前記アバター情報が配置された仮想空間を表す画像である仮想空間情報を生成する仮想空間生成部と、
 を備えることを特徴とする情報サーバ装置。
  【請求項2】
 前記仮想空間生成部が生成する前記仮想空間情報は、前記地図情報に基づく三次元空間を表し、
 前記情報端末から送信されるアバター操作情報に応じて、前記仮想空間生成部が生成する前記仮想空間に配置された前記アバター情報を動作させるアバター動作制御部とをさらに備え、
 前記アバター情報は、二次元画像であること
 をさらに特徴とする請求項1に記載の情報サーバ装置。
  【請求項3】
 前記ユーザに対応する前記アバター情報を前記情報端末に送信し、当該情報端末によってデザイン変更された前記アバター情報を受信し、受信した当該アバター情報を、前記ユーザの識別情報に対応付けて前記アバター情報記憶部に記憶させるアバター情報変更部と、
 をさらに備えることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の情報サーバ装置。
  【請求項4】
 前記アバター情報記憶部は、少なくとも第1のユーザと第2のユーザとのそれぞれに対応する第1のアバター情報と第2のアバター情報とを記憶し、
 前記第1のユーザに利用される第1の情報端末から、文字列情報を受信する文字列情報受信部と、
 前記仮想空間生成部が生成する前記仮想空間に配置された前記第1のアバター情報と、前記第2のアバター情報とが、前記仮想空間内で予め定められた距離以内に存在すると判定される場合に、前記第1の情報端末から受信する前記文字列情報を、前記第2のアバター情報に対応する前記第2のユーザに利用される第2の情報端末に送信する文字列情報配信部と、
 を備えることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の情報サーバ装置。
  【請求項5】
 ネットワークを介して地図情報を配信する地図情報配信サーバ装置と通信を行い、当該地図情報配信サーバ装置から受信する前記地図情報を、前記地図情報記憶に記憶させる地図情報取得部
 をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の情報サーバ装置。
  【請求項6】
 ユーザに利用される情報端末とネットワークを介して情報通信可能であり、現実に存在する場所の地図画像を表す地図情報を記憶する地図情報記憶部と、前記ユーザに対応するアバター画像を表すアバター情報を記憶するアバター情報記憶部とを備えた情報サーバ装置を用いた情報サービス方法であって、
 前記地図情報記憶部に記憶された前記地図情報が表す地図上に、前記アバター情報が配置された仮想空間を表す画像である仮想空間情報を生成するステップ
 を備えることを特徴とする情報サービス方法。

解説

クレームツリー(請求項の数・6)
請求項1┬請求項2┬請求項3
            |            ├請求項4
            |            └請求項5
            ├請求項3┬請求項4
            |            └請求項5
            ├請求項4─請求項5
            └請求項5
請求項6

                            • -

請求項1(現実の地図をつかった仮想世界(メタバース))
 効果:現実の地図をつかっているので、現実世界と連動したコミュニケーションサービスを提供することができ、また、現実サービスとの関連も期待できる。
請求項2(空間は3Dで、アバターは2D)
 効果:ユーザの操作に応じて動く演算処理の負荷を軽減。これにより、より多くのユーザが同時に、円滑に利用できる。
請求項3(アバターを編集できる)
 効果:2Dだし、自分の好きな絵を描きやすい。
請求項4(チャットもできる)
 効果:より多彩なコミュニケーションができる。
請求項5(GoogleMapとか使う)
 効果:安上がり。
請求項6(請求項1に対応する方法)
 効果:請求項1と同じ

うん、いいんじゃんすか。
頑張れば権利化できそうな気がしますね。

なんのこっちゃかわからん人のために

特許は、具体的な製品やサービスに与えられるものではなくて、技術的思想に与えられます。で、出願は書類で行い、出願した書類に基づいて、クニによって特許権を与えるか否かの審査が行われます。だから、製品やサービスのここぞ、と思う技術思想を文章化して、書類にして出願する必要があります。例えば↑あんな感じです。
出願書類としては、願書、特許請求の範囲、明細書、図面、要約書を提出することになってます。
で、今回書いた↑アレは、「特許請求の範囲」で、特許出願の核となる部分です。特許するか否かは、この部分に対して審査され、権利化された場合は、この部分の記載に基づいて権利行使が可能となります。「明細書」には、「特許請求の範囲」に記載した技術的思想の具体的な実施形態を記載します。明細書に記載する発明の詳細な説明は、当業者がこれを読んで同じものを作れるほどに具体的に書く必要があります。具体的な実施形態といっても、コード貼り付けるわけじゃありません。審査官もそんな大量のコード追いかけるほどヒマじゃありませんし、なんのこっちゃかわかってもらえませんので、これもやっぱり文章でかきます。というわけで、特許出願書類の記載に具体的な製品名、サービス名が入る余地はフツウありません。
特許権を与えられた全ての特許明細書は特許電子図書館で閲覧できますから、簡易検索とかで興味あるキーワードで探してみると面白いかもしれません。「SNS」とか「ブログ」とか「ネットワークゲーム」とかで検索するとけっこうみつかります。特許明細書では、英字も全角文字で入力するように(慣習上)なっているので検索時には要注意です。また、サービス名や製品名で検索しても意味がありません。例えば、仮に↑この出願をする場合に、「はてなワールド」という単語は明細書中に一度もださないでしょう。「GoogleMap」とかそんな単語も一回も出しません。それがどういうものかを言葉で説明します。安易に固有名詞を出すと発明が不要に限定されかねませんし、そもそも人様の商標を明細書中の説明で使うというのはあまりお行儀が良くありません。この「全ての特許された特許明細書は特許電子図書館で公開されている」ということを知らない方が意外といますが、特許権は、こういう技術や着想を世の中に開示する代償として与えられる権利なので、公開されていない特許、というのは制度上有り得ません。
で、はてなワールドは、多分、

  1. セカンドライフ的なやつをつくろう!
  2. そういえばグーグルマップがあるね。これを使ったら面白いんじゃないか?地図情報つくる手間も省けるし。
  3. それに、現実の世界を仮想空間にしたのはこれまでなかったから、コミュニケーションの仕方もちょっと違ったものになるんじゃない?
  4. セカンドライフは人数が限られるのがアレだよね。重いし。できるだけ多くの人が軽くコミュニケーションしたい。みんなの3Dアバターをグリグリ動かすと同期とるのが遅れてアレだから、アバターだけ2Dにしちゃったらどうか?背景の変化はまあそれなりに予測できるから演算に工夫のしようもあるし、少なくとも背景は3Dじゃないとつまんないよね。

みたいなことだったんじゃないかと思いますが、ここで、
1.は経営的な着想ですから、技術的思想とはいえませんので、特許請求の範囲にかいてもしょうがありません。
2.は面白い着想ですが、地図情報を外からとってきたら安上がりだし手間も省ける、という経済的な効果は技術的な効果とはいえません。自前で地図を用意しても技術的な効果は同じです。地図情報を外からとってきた場合と自前で用意した場合との、技術的な効果、サービスとしての差が主張できなければ、特許はされません。ですが、まあ今回は従属項として請求項5に入れてみました。従属項なので、請求子1とか2とかで特許性が認められれば、芋づる式に特許化されます。
3.は、微妙ですが、従来とは異なる性質(現実の地図)の情報を利用することを思い付いたわけですから、技術的な思想といえるでしょう。コロンブスのたまごみたいな発想ですが、誰かが気付かなきゃ誰も気付かなかったかもしれないわけで、その気付きを世の中に教えてくれることは良いことで、コロンブスのたまごには特許を与え得る、というのが特許の思想です。提案書でもこれをプッシュしているみたいですから、ここをメインクレーム(請求項1)としました。
4.は、ネットワークを介して受信する複数アバター操作を3Dで同期とって演算処理してると遅くなる、という課題を解決するための技術的思想と言えますから、特許を取得し得るでしょう。ジツはここが本命なんじゃないかという気がします。請求項2としました。独立項でも良いかもしれません。