It's Not About the IP

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特許業界をDISる。

前置き。

私より後に職場にやってきた同年代の新人弁理士が、激務とノルマのプレッシャーと人間関係のストレスとが原因で悔しい思いをしながら辞めてしまうことになって、私はまたやりたいことが増えた。
「男なら、売れてからノーガキ垂れろよ」といったのは松尾スズキ監督の映画『恋の門』にでてきたハードボイルド小学生のキンゴで、私はこれを聞いてハッとして知財を志したといっても過言ではない。情報社会において翻弄される知財というパラダイムに興味があって、それについてイロイロとノーガキを垂れたりグズグズと考えたりしていたんだけど、その世界で飯が食えて「売れる」くらいになってからキチッとノーガキを垂れたいと思った。知財の世界で「売れる」には知財専門の法律資格である弁理士の試験に受かる程度の知識を得る必要と、実際に受かって資格を得る必要とがある。また、知財の世界で飯を食っている人がいっぱいいる特許業界というところには特許明細書を作成するスキルが基礎スキルとしてあって、このスキルがないと、「ところで、お前どんだけ特許明細書かいたの?」*1とDISられる負い目を負うことになるから、知財の世界でちゃんと「売れる」といえるためには弁理士資格と明細書作成スキルとの双方が必須条件としてあると考えた。というわけで私はまだどっちの条件も満たしていないので「売れ」てるとは全然いえなくてノーガキ垂れる資格などないのだが、このブログは匿名の独り言で、「売れ」たときに大声でノーガキを垂れるためのメモ、下書きということにして自分を納得させている。で、そういう私のようなヘタレの新参者が前面に押し出すべきは素直さと謙虚さだと思っているので、特許業界がずっと続いてきた歴史や頑張っている沢山の特許業界人や特許業界が私をとりあえず受け入れてくれていることには本当に感謝しているし、自分が特許業界に転職しようと思ったときにネット上でみた評判はネガティブな面がほとんどでウンザリしたので自分がそれに加担するのはイヤなのだが、前置きが長くなったが、今日はちょっと特許業界をDISる。

特許業界をDISる。

特許業界というか特許事務所なんだけどあえて特許業界と言わせてもらうけど、学歴とプライドばっかり高くて無神経な人が多すぎる。体育会系の厳しいけれども仲間がピンチとなったら全力で助けあうというマインドの人や、文化系の人間の弱いところをグダグダと全て受け入れてしまうようなマインドの人はほとんどいない。特許業界の彼らのほとんどは実際に処理能力が高いけれども他人に関心がないオタク理系くんだ。そして自身の能力が高い故に仕事の遅い人や成長の遅い人が理解できず受け容れる器量がない場合が多い。だからとても閉鎖的だ。
特許業界には、特許明細書の作成は職人技だという暴論がまかり通っていて、新人の育成では師弟関係の名目の下、理不尽な密室の絶対王政が始まる。明細書の作成には確立された方法論がなくて、とりあえずかいてみて、隅から隅までダメだしを喰らうという修行を繰り返して悟りを啓いたときに一人前になる。しかし、明細書作成というのが掴み所の無い高尚な作業なわけではたぶん無くて、明細書作成は職人技だなんて要するに誰も明細書作成の方法論をマニュアル化してこなかったという特許業界の怠慢の言い訳に過ぎない。思えばソフトウェア開発だって根本は職人技だが、ある程度方法論化できるはずだと考えたというか取り組んだ人がちゃんといて、ソフトウェア開発人口が増えるにつれていろんな研究がされてソフトウェア工学が発達した。ソフトウェア工学の発達によってソフトウェア開発は分業化もすすんだし、アルゴリズムデザインパターンの模範が示されるに至る。この効用は生産性の向上と効率化だけではなくて、模範となる方法論が設定されているから、新参者がその基礎的な作法、基礎教養を身に着けてまがりなりにもそれなりに動くものをつくれるようになる(仕事ができるようになる)までの時間は圧倒的に短くなった。そして色んな人がソフトウェア開発でメシを食えるようになって新参者が入りやすくなって、人数が増えて人的なベースアップがすすんだから色んな才能が入ってきて天才やカリスマが登場して盛り上がる。ところが特許業界には視界の狭い、狭い世界で褒められればそれで済むようなマッドな理系くんばかりでしかも彼らはみな優秀で真面目だから、師弟関係に疑問を感じることもなく砂を噛むような思いをしながらも明細書スキルを身につけてきた。そして、特許業界はそれを要領よく身につけることが出来ない人はそのままいなくなってしまうような野蛮なジャングルだ。

彼は。

辞めてしまう彼はこの業界には珍しい都会派の清潔感あるイケメンで、キャバクラが大好きな狂犬だがすごく真面目だ。彼はじっくり勉強した後、弁理士試験に受かってこの事務所に就職してきて、初めて明細書かきの仕事をした。彼は本当によく勉強していてなんでも知っているので、私は毎日一緒にタバコを吸いながら弁理士試験を勉強していてわからないところを教えてもらっていたし、一緒に妖しいビアガーデンにいったり微妙な合コンにいったり上野でカニを買って先輩の家に鍋パーティをしに行ったりした。私は彼と毎日一緒にタバコを吸いながらアホな話をして一緒に笑っていたのに、彼が辞めてしまうことを打ち明けてくれたのはもう上司に辞めると伝えた後だった。その後、呑みにいって、私もあんまりノルマを達成できていないが彼もあんまりノルマを達成できていないことは知っていてそのプレッシャーがすごいことは自分も感じていることだから、そんなの気にしなきゃいいんだと、プレッシャーはすごいけど適当にすいませんていっとけば済むことでもあるし、慣れてくればノルマもこなせるようになるんだとそういうようなハナシをしたんだけど、「でも、人に迷惑かけるのがイヤなんだ」と言われたときは本当に切なくて、私は自分が本当に情けなかった。「人に迷惑かけるのがイヤだ」というのはそのときは、彼がノルマが達成できないと所属する課の成績も下がるし、上司にも迷惑がかかるし、という意味だったのだけれど、彼は「人に迷惑かけるのがイヤだ」からこそ、日々自分の仕事でテンパっている私に辞めることを打ち明けてくれたのがそれを決心した後だったのだと思った。私は彼に、辞める辞めないとかへビィな話題を持ちかけられたら迷惑だと思わせていた。そして実際、私も自分の仕事に精一杯で彼がそんなに追い詰められていたことに気付けなかった。

俺は。

ワンピースで、ルフィが青キジというすごい強いやつに敗けた後、自分の仲間を連れ去られて失いそうになったときに、もうこんな思いをしないために、仲間を失わないために、俺が強くなる、と決心する場面がある。



*2

俺も強くなる。こんな思いをしないために、仲間を失わないために、俺は強くなる。
一年くらい前にも身近にいて世話になった先輩が精神的ストレスで休職した(その後復帰していまは仕事している)ときも、何も力になってあげられないことが悔しくてしょうがなかった。もっと自分が仕事を要領よくできればいろいろと人の相談にも乗れるし、ちょっと手伝ってあげるとか一緒に考えたり調べたりするとか、こっそり自分の成果物をあげちゃうようなことも可能だろうけども、今はまだ私は自分の仕事だけで精一杯のほぼ毎日午前様で土日出勤も珍しくないファックなワーカホリックだ。先輩の休職で悔しい思いをして一年、俺はまだ自分のことだけで精一杯で、人を助けることができないヘタレです。情けない。
私は知財という切り口からIT革命の震源地を目指していて、弁理士資格と明細書スキルとを身につけたらいわゆる明細書作成業務からトンズラしてオープンソースものの知財問題とかクリエイティブコモンズとか、あのへんのムーブメントに身をおいて既存特許制度のナンセンスさを建設的に叫んでいきたいと思ってるんだけど、特許事務所にいて明細書作成者としてやりたいことができてしまった。マッドな理系の秀才くんじゃなくても、新参者がある程度明細書を素早くかけるようになるまでの方法論はきっとあるはずだし、こんな風に真面目に知財を志した人たちがちょっと成長が遅れるとすごいプレッシャーがかかって辞めてしまうような助け合いのないマッチョな業界なんてウンコだ。旧帝大大学院をでた要領の良い優秀な人たちは、そういう人と関わらずに一人で黙々とできるところがこの仕事の良いところなんじゃないか、というかも知れないけど、ウェブ進化とともに情報の意味が急速に変わり続ける今後、そんな個人で太刀打ちできる問題じゃなくなるはずですよ、知財は。知財問題にチームとして取り組めるような方法論を模索することや、それによって新人が仕事をしやすくなること、新人が仕事をしやすくなることによって色んな才能が特許業界に入ってくるようになること。特許業界はもっと開放されるべきだ。そもそも特許業界の歪みに目をつぶっては、建設的にITと知財との融合を叫ぶことはできないのかも知れないな。
恋の門』の主人公はノーガキばかり垂れる売れないマンガ家で、キンゴに「男なら、売れてからノーガキ垂れろよ」と言われてやはりハッとして奮起するのだが、そこでキンゴにさらに「ばかじゃねえの?子どものいうこと、真に受けんなよ」と罵られる。私もまだ、子どものいうこと真に受けるばかなんです。
Stay hungry,Stay foolish.*3
俺は強くなる。そして、ラブでピースな知的財産のノーガキを大声で垂れまくってやる。

*1:元ネタは、あるカリスマエンジニアが放った一言。

*2: ©『ワンピース』巻四十、尾田栄一郎集英社。ここ撮るために駅前の貸しマンガ屋で借りてきた。

*3:アップルの創業者でもあり現CEOのスティーブ・ジョブズが、2005年に「IT革命の震源地」スタンフォード大学で行った感動的な卒業式スピーチでの感動的なキーワード。動画字幕付き動画。なんかいまみれないな。消しちゃったのかな?