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ワタシハチテキザイサンホウチョットデキル

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「人間を手術、治療、診断する方法は、特許されない」を考える。

特許法

ここ(返事エントリもらっちゃいました)にちょっとコメント書かせて頂いたんですけど、それに関連してまたグズグズ拡散して考えていたら、「人間を手術、治療、診断する方法は、特許されない」ということから、特許制度は「医師は倫理的だけど、技術者は倫理的でない」という思想を含んでいるということが論理的に導かれる気がしてきたのでエントリかくことにしました。

まず、制度を整理

人間を手術、治療、診断する方法は、特許されないということになっていて、制度的なもともとの根拠はたぶんTRIPS協定*1第27条(3)(a)の、

(3) 加盟国は,また,次のものを特許の対象から除外することができる。
(a) 人又は動物の治療のための診断方法,治療方法及び外科的方法

というところ。知的財産は一瞬で国境を超えるので国際的なアレが影響しまくっている制度なのですが、国際的に、人道的に、イキモノを助ける方法に独占権を与えるのってどうなのよ、独占権がないから手術を実施できなくて、命を助けられない、とかになったら良くないじゃんよ、倫理的に広く開放されるべきじゃんよ、ということで、国際的にこういうコンセンサスができている。TRIPS協定はいわば国際社会の抽象クラスで、基本的にそのままでは動きませんので、TRIPS協定受諾国=WTO加盟国は、各国内でTRIPS協定のメソッドを継承した実効性ある法律にこの思想を実装します。
例えば欧州では、欧州特許条約第52条(4)に、

手術若しくは治療による人体又は動物の処置方法,及び人体又は動物の診断方法は,(1)にいう産業上利用することができる発明とはみなされない。この規定は,これらの何れかの方法において使用するための生産物特に物質又は組成物には適用しない。

という規定を設けて、「人体又は動物の診断方法は、産業上利用可能性がない」というリクツでTRIPS協定第27条(3)(a)の思想を実装している。

それにしても、「人体又は動物の診断方法は、産業上利用可能性がない」というのもムチャなハナシだと思う。大体この「産業上利用可能性」ってよくわからなくて、「病院は非営利事業者」とかもよくわからなくて、営利事業者より儲けてる非営利事業者ってナニヨ、とか思うわけですけど、アメリカ様の特許法では「人体又は動物の診断方法」も特許される。でも、倫理的に広く開放されるべきなのは同じなので、米国特許法第287条(c)に↓こういう規定を設けてTRIPS協定第27条(3)(a)の思想を実装している。

(1) 第271 条(a)又は(b)に基づく侵害を構成する医療行為の医師による実行に関しては,第281 条,第283 条,第284 条及び第285 条の規定は,当該医師又は当該医療行為についての関連健康管理事業体には適用しない。

条文参照ばかりで良くわかりませんが、とにかく、人の診断方法は特許されるけど、医師が侵害する場合は特許権者は救済されないことにした。というのはつまり、特許されるけど、医師が実施する場合は権利者は文句言えないようにしたから、安心して診断、手術して。ということ。

で、日本はどうやって法律に実装してるかというと、してない。
してないけど、運用でカバーしている。特許庁審査基準2.1に、↓こうかいてある

2.1 「産業上利用することができる発明」に該当しないものの類型
(1) 人間を手術、治療又は診断する方法

とかなんとか。ちなみにこうも書いてある。

なお、手術、治療又は診断する方法の対象が動物一般であっても、人間が対象に含まれないことが明らかでなければ、「人間を手術、治療又は診断する方法」として取り扱う。

これは、逆にいえば、対象が明らかに人間を含まない動物の場合は、診断方法が特許される。というか、動物を手術、治療、診断する方法どころか、動物自体が特許されます。実験用の「マウス」とかの特許ありますもんね平気で。イキモノが、「物の発明」として特許されるって、なんか、エグイよね。そこはまあ今回は突っ込みませんけど。

ところで、特許制度の根本思想

特許制度の目的は、発明の保護と利用です。技術者が発明を国家に開示する代償として、クニは発明の実施に独占権を与えて発明を保護する。国家に開示された発明は国家によって一般ピープルに開示され、利用されることによって、その技術を基に新しい技術が生まれ、技術が累積的に進歩する。ここには、クニが「保護するから開示してよ」といって、技術者が「しょうがねえなあ」といって開示してあげるという構図がある。
じゃあ、なぜそういうインセンティブを与えるかっつーと、技術者に発明を隠されたら困るから。開示してくれないと、技術の進歩が滞る。発明者が発明を開示して、それをみた大企業が資本に任せて発明品を量産しまくりだして儲けまくって、発明者の利益が横取りされたみたいになったら、発明者は開示するのがイヤんなっちゃうから。市場競争における優位性を確保することで、技術者のインセンティブを保護して、開示を促すことにした。

そこで、考える

人間の診断方法が特許されないのは、それが倫理的に広く開放されるべきだから。
→人間の診断方法は、特許されなくても倫理的に広く開放される。
→人間の診断方法は、インセンティブを与えなくても倫理的に開示される。
→人間の診断方法は、保護しなくても大資本家が独占する心配が倫理的にない。

→人間の診断方法以外の技術は、保護しないと倫理的に開示されない。
→人間の診断方法以外の技術は、インセンティブを与えないと倫理的に開示されない。
→人間の診断方法以外の技術は、保護しないと倫理的に大資本家に独占される。

→人間の診断方法を扱う医師は倫理的だけど、人間の診断方法以外の技術者は倫理的でない。
∴医師は倫理的だけど、技術者は倫理的でない。

と、いうことが論理的に導かれるな、と思ったんだけど、この後、この論理を検証したり、資本主義はファックだ、とか、オープンソースってこういう法の思想を超越しててステキ、とかそういう方向に展開しようかと思ったんだけど、ここまで書いて疲れたのでどうでも良くなってしまいました。腹も減ってきたし。気が向いたら続きます。

*1:TRIPS協定は、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定。WTO加盟国になるために受諾しなければならない協定のひとつ。国際社会において、加盟国が遵守すべき知的財産制度についての最低基準(ミニマム・スタンダード)とされています。