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「patent」と「特許」は対義語

新規な発明を「公開」する代償として発明を「保護」し、もって発明を奨励して産業の発達に寄与する制度をhogeと呼ぶことにします。

hogeがどういう理由で発展してきたのかというのは実はよく分かりません。hogeの起源として、ガリレオが発明をしてヴェネチア公に「保護」を求めたという伝説が語られていたり、白田さんの研究には、特許制度と著作権制度の発祥はもともとは同じかもしれなくて、要するに権力による新規技術の検閲制度として機能したという示唆がされたりしています*1。中山さんの『工業所有権法』なんかでは、「独占が利益を生むことは古くから知られており」〜「公権力により独占が与えられ、それによって独占者が反射的に利益を得るということは、古今東西を問わず無数に存在した」と語られています*2。でも、「公開」というキーワードは、hogeの起源を辿ると実はなかなかでてこない。

「権力による検閲」、「独占が利益を生む」ことを目的とする制度というのはなかなか反発を招きそうです。そこで(おそらくは権力によってこそっと)、hogeを正当化するために、「公開」というキーワードが後付けされた、と考えるのが自然なんじゃないでしょうか。「公開」を目的として、「新規な発明を公開する代償として発明を保護し、もって発明を奨励して産業の発達に寄与する」というのは、民衆を惹き付けるには充分、立派な理念です。

で、英語でhogeを意味する「patent」の語源は、ラテン語の「patentes」(公開する)であると言われています*3hogeの制度はきっと、「公開」を目的とすることを前面にアピることにより西洋社会で民衆に受け入れられ、発展してきた。でも、というかだからこそ、hogeは「公開」を目的とする限りにおいて、受け入れられるべきです。

日本には文明開化の頃にhogeが輸入されました。それ以前にも、独占を与えその反射効として利益を得るという原始的な制度はありましたが*4、「保護」と「公開」との双方をキーワードとして人間を惹き付けるに充分な理念をもつ制度としてのhogeは、その発展の経過について中抜けの階段飛ばしをして*5、特許制度として誕生した。特許制度は「保護」と「公開」とをキーワードとしますが、「特許」という語から想起されるのは「公権力により実施の独占を特別に許可する」というイメージで、「保護」はイメージできても「公開」はイメージできません。

「patent」という語はhogeの目的を表しているが、「特許」という語はhogeの手段を表している。誤訳といって良いでしょう。だからhogeを「特許」という言葉で表しているうちは、立派な理念を感じることができなくて、なんかしっくりこないのかもしれません。

法律学講座双書 工業所有権法〈上〉特許法

法律学講座双書 工業所有権法〈上〉特許法

*1:いま読み直したら、「まったく同一のものとして把握されていたと見て間違いない。」と言い切ってますね。

*2:中山信弘『工業所有権法』p.32

*3:cf. wikipedia「特許」2008/6/21

*4:中山信弘『工業所有権法』p.43

*5:inspired by 夏目漱石『現代日本の開化』