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法律と科学の「適正手続」について

法律と科学の文脈での「適正手続」という言葉をめぐってちょっとした騒ぎになっていて、これはちょっと法律屋と科学技術屋のハイブリッドである特許屋として一言かいておいても良いかもな、と思ったので書きます。

(元ネタ)科学者とのコミュニケーションが痛いわけ
(反論)法律と科学の間の溝は深い

この元ネタのエントリが全体として何を言いたいのかは正直よくわからないんですけど、「適正手続」という言葉を出して言いたかったことはなんとなくわかるような気がします。法律の世界で「適正手続」という概念を説明するときによく言われる極端な例があって、例えば警官が検問をしていて車を止めました。その車に乗っていたドライバーに、ちょっとこれに息吹きかけてみて下さい、といってアルコールチェッカーを差し出します。ここでドライバーがチェッカーに息を吹きかけて、何もでなければスルー。チェッカーが反応すれば、ドライバーは酒気帯び運転をしていたとして法律的に違法。これに対し、ドライバーが息吹きかけるのを拒否したとします。警官は、ドライバーにお願いして息を吹きかけてもらうことはできますけど、強制的に息を吹きかけさせる権利はありません。でも、あやしいと思った上にドライバーの態度が気に入らなかった警官は、実力行使にでました。自ら強引にドアを開け、嫌がるドライバーの腕を掴んでムリヤリ外に引きずりおろし、勝手に車内を漁っていたら、なんと飲みかけの酒どころか覚せい剤がみつかりました。

さて、この覚せい剤を証拠として、覚せい剤所持の違法性を法律的に証明できるでしょうか?

できないんですね。この覚せい剤は、違法な実力行使によってみつかったもので、証拠として適正ではないからです。「適正手続」を踏まえてみつかった証拠じゃないからです。無罪です。これはちょっと法律に慣れてないと奇妙に感じるかもしれません。そんなこといったってこのドライバーが覚せい剤をもってるのは事実じゃないか、だったら違法だとするのが正しいんじゃないかと感じる人もいると思います。でも、「適正手続」を踏んでいないのでこの覚せい剤は証拠にならないんですね。これが法律の考え方です。

一方、科学の世界では、ちょっと乱暴にこの例えに倣っていうと、「理由はどうあれ覚せい剤はみつかったんだからそれが事実だ」という考え方をとることはあるでしょう。

情報処理の分野なんかではあんまりないかもしれませんが、物理や化学の分野では、「なんでこうなったかはよくわからないけど、なんか色々やってみていたら、Aという条件でBという実験をするとCという結果になった。数式や化学式では(まだ)説明はつかん。でもAという条件でBという実験を100回やってみたら100回ともCという結果になった。だからAという条件は正しい。」ということはあるでしょう。あるいは、「Aという条件でBという実験を100回やったら、100%の確率でCという結果がでるわけじゃなかったけど、30%の確率でCという結果がでた。一方、Dという条件でBという実験を100回やったら、Cという結果がでるのは2%の確率だった。だから、Cという結果を出したいなら、Dという条件よりもAという条件が正しい。なんでかはわからんけど。」ということはあるでしょう。

元ネタが「適正手続」という言葉を出しているのは、こういう「法律」的な証明の仕方や考え方と、「科学」的な証明の仕方や考え方との違いを言いたかったんだと思います。で、全体として何がいいたかったのかは、やっぱり正直ちょっとよくわからないんですけどね。

ちなみに、一定の再現性があれば、なんでかはわからなくても、特許もとれます。