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例のフリーの特許を解説するよ(弁理士試験受験生へのクイズつき)

フリーがマネーフォワードを特許権侵害で訴えたのが話題になっています。
例によっていろんなところでいろんなことが言われているみたいですが、特許を軽く読んでみたので、誰に届くかわかりませんが、インターネットの大海原にちょっと解説を投げ込んでおきます。

特許5503795はこれ↓

patents.google.com

特許になっている請求項は全部で14項。構成は以下のようになってます。
・請求項1:装置
  L請求項2-12:装置の従属
・請求項13:請求項1に対応する方法
・請求項14:請求項1に対応するプログラム

それでは、請求項1をみてみます。この文言によって特許権の権利範囲が定まります。

【請求項1】
 クラウドコンピューティングによる会計処理を行うための会計処理装置であって、
 ユーザーにクラウドコンピューティングを提供するウェブサーバを備え、前記ウェブサーバは、
 ウェブ明細データを取引ごとに識別し、
 各取引を、前記各取引の取引内容の記載に基づいて、前記取引内容の記載に含まれうるキーワードと勘定科目との対応づけを保持する対応テーブルを参照して、特定の勘定科目に自動的に仕訳し、
 日付、取引内容、金額及び勘定科目を少なくとも含む仕訳データを作成し、
 作成された前記仕訳データは、ユーザーが前記ウェブサーバにアクセスするコンピュータに送信され、前記コンピュータのウェブブラウザに、仕訳処理画面として表示され、
 前記仕訳処理画面は、勘定科目を変更するためのメニューを有し、
 前記対応テーブルを参照した自動仕訳は、前記各取引の取引内容の記載に対して、複数のキーワードが含まれる場合にキーワードの優先ルールを適用し、優先順位の最も高いキーワードにより、前記対応テーブルの参照を行う
ことを特徴とする会計処理装置。

要するに自動仕訳ですね。
この下線の引いてあるところが発明のポイントです。この下線は、出願後に、特許にするために修正(補正)したということを表していて、特許庁は、この下線部分がなければダメだけど、この下線部分があれば特許にするよ、という判断をしたことになります。

この発明のポイント部分で、
「複数のキーワードが含まれる場合にキーワードの優先ルールを適用し、優先順位の最も高いキーワードにより、前記対応テーブルの参照を行う」
といってます。これはどういうことなんでしょうか。

明細書を読んでみると、例えば、「取引内容の記載」が「モロゾフ JR大阪三越伊勢丹店」である場合、「JR」をキーワードとして自動で勘定科目に仕訳ようとすると「旅費交通費」に分類されるけど、「モロゾフ」をキーワードとして自動で勘定科目に仕訳ようとすると贈答品の「接待費」に分類されることが起きうるといってます。こういう場合に、どっちを優先して分類するのかを、予めルール付けておく、ということですね。例えば、優先順位として、
 1 品目(item)
 2 取引先(partner)
 3 ビジネスカテゴリー(biz_category)
 4 グループ名(corp_group)
 5 商業施設名(building)
みたいな感じで優先ルールをもっておいて、かつ、
モロゾフ」は「取引先」
「JR」は「グループ名」
三越伊勢丹」は「商業施設名」
みたいなデータを持っておいて照らし合わせれば、「モロゾフ」、「JR」、「三越伊勢丹」の複数のキーワードのうち、優先順位の高い「取引先」である「モロゾフ」のキーワードに着目して、「接待費」に分類できるよね。便利だよね。

という、そういう特許です。

そんなの当たり前じゃん、という気もしますが、拒絶理由通知で引用されている引用文献をみてみます。

patents.google.com

これでは、取引内容の記載が「水道局 トウキョウト スイドウ」だったら、勘定科目を「水道光熱費」に分類する、みたいなことが書かれていて、要するに、従来は、全文一致で分類してたっぽいです。

フリーの特許では、そんな大量の取引内容を全文一致で網羅するように予め勘定科目と対応付けてテーブルもっておくなんて無理だろ、といってます。だから、例えば「モロゾフ JR大阪三越伊勢丹店」を、「モロゾフ」、「JR」、「三越伊勢丹」に分割して、上記のような方法でやれば、ある程度、現実的に解決可能なレベルでできるよね。しかも、クラウドに集まってきた、複数ユーザが手で分類した結果とかに基づいて機械学習していけば、きっとまあまあの精度で分類できるようになるよね。と、そういうことをいってます。

ちなみにこの出願、審査経過をみてみると、審査官に補正案の事前確認やって、やっぱりダメっていわれたので、生きてる請求項に限定した、ということになってますね。
まあ、今の請求項はちょっと広すぎるかなという気はします。「優先ルール」が↑ああいうことをいってる、というのは請求項だけ読んでわかんないですもんね。なんか限定するハメにはなるかもしれません。無効にできるかは、適当な先行文献をみつけられるか次第ですかね。

それでは突然ですが、弁理士試験受験生のあなた、または特許実務経験の浅いあなたにクイズ!!

この出願を時系列でおさらいしてみます。

【原出願日】平成25年3月18日(2013.3.18)
【出願日】平成25年10月17日(2013.10.17)
【審査請求日】平成25年10月17日(2013.10.17)
【早期審査対象出願】
【登録日】平成26年3月20日(2014.3.20)
【発行日】平成26年5月28日(2014.5.28)

この出願、分割出願なんですけど、原出願が公開されてないんですよね。なんででしょう。なんでだと思いますか。弁理士試験受験生のあなた。せっかくなので考えてみて下さい。どんなときにこうなると思いますか。


















はい、原出願は取り下げられてるんでしょうね、たぶん。公開されてないってことは。しかし、なんで取り下げなんてするんでしょう。なんでだと思いますか。なんでわざわざ取り下げなんて面倒なことするんでしょう。なんとなくで取り下げとかしません、普通は。ケースとしてはレアですが、取り下げなきゃいけない、というシチュエーションもあります。さあ、それはどんなシチュエーションでしょう。考えてみて下さい。これはわりと法律がちゃんとわかってないとわかんないと思います。法律がわかってても、それなりの実務経験があって、やったことないとピンとこないかもしれません。でも考えればわかるかもしれません。さあ。どうでしょう。なんで取り下げてるんだと思いますか。


















ヒントは、早期審査してるところです。実施してるからでしょう。そしたら、原出願もきっと早期審査してたと考えるのが自然です。原出願について、公開される前に、早期審査して、拒絶理由がきて、補正して限定して、でもやっぱりダメだっていわれて、限定的減縮の補正制限がかかっちゃって、限定しすぎちゃったので、イチからスタートで分割して、分割したんだけど、分割出願に原出願と同じ請求項が残ってて、そのままだと39条くらっちゃうから、原出願は取り下げた。っていうパターンが考えられますね。違うかもしれないですけどね。