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今年の芥川賞は仮想通貨を題材にした『ニムロッド』。読んだ

盛り上がったり盛り下がったりする仮想通貨/ブロックチェーンのテクノロジーイーサリアムもこないだ50%攻撃を食らったようですし、なんかすごそうだぞといわれながらなかなか実用化する未来はみえてこないですね。

そんなこんなで今年の芥川賞、上田岳弘『ニムロッド』は仮想通貨を題材にした小説です。そうきたかって感じですね。芥川賞という伝統文化っぽいのものと、仮想通貨というフワフワと尖ったものが並んでるってのがなんだかちょっとシュールです。面白かった。

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

単行本出てる。

文藝春秋で全文読めます。

仮想通貨について考えると、そもそもお金ってなんなんだって改めて考えるじゃないですか。旅行やらなんやらで知らない人ばかりの知らない土地でもお金があるとわりと簡単になんとかなるという体験をするとき、お金ってものすごく絶対的な価値を持ってるように感じるわけですけど。でもお金ってもともとは貝殻とかで架空的につくりあげた指標でしかなくて、抽象的な概念をみんなで共有してるということでしかない。法定通貨ってのは国家による裏付けがあるわけですけど、国家というのも抽象的な概念なわけで。そんなの一夜にしてフワッとなくなってしまったりしそうなものだけど、あんまりそういうことは起こらない。人間社会って不条理なこともたくさんありますけど、根っこのところではかなり抽象的な概念をしっかりみんなで共有してる。人間って個の命がどうだとかいっても結局のところ集合体でしかないのかもしれないなあみたいな。

ちょっと前に世界中でベストセラーになったサピエンス全史もそういう話ですよね。人間の人間たる由縁は虚構を共有する能力だ的な。

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福

この小説を読みながら、改めてそんなことを考えたりしました。

このニムロッドは、コンピュータ企業に勤めるエンジニアで、社長からある日突然ビットコインのマイニング事業を始めることを命じられた僕(38歳)の目線で語られます。主な登場人物は3人で、僕と、僕の恋人で元夫との子供を堕胎した過去をもつ彼女と、同じ会社に勤めながら小説家を志すも夢叶わずに鬱を患った先輩。

作者も同世代だし、どれもなんだか身近というか他人事とは思えない感じ。涙目のルカ的なのもあるし。世代の違う人にも刺さる普遍性がこの小説にあるのかってのは謎なんですけど、芥川賞に選ばれたってことは刺さる要素があるんでしょうね。

しかしこの作者の方、コンピュータ企業の役員やりながら小説かいてるらしいんですよね。すごいなあ。私も小説かこうかなあ(冗談です)

ちなみに作中に登場する「ダメな飛行機コレクション」はこちら→ダメな飛行機コレクション - NAVER まとめ