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「秘密特許」についておさらい

「秘密特許」制度導入についての報道があり、自民党の甘利議員が追認するtweetをしました。報道によると来年の法改正を目指すらしいので、これが本当ならもう「検討に入った」っていう段階ではなく案文できてるんじゃないですかね。

これがにわかに話題になっているので、ちょっとおさらいしておきます。ちなみに2008年にも産経新聞から秘密特許法案が国会に提出されるという報道があって、当時もちょっとブログにかきました。(これかいた私はまだギリギリ20代か…

どういう制度か

特許出願されたもののうち、国が国益にとって公開しない方が良いと判断したものについて、その内容を秘密にする制度。要するに軍事目的。秘密にするかどうかは国が決めるもので、出願人が請求するものではない(秘密意匠とは違う)。秘密になると出願人にとっては権利行使できず不利益なので、国から補償金がでる。いくつかの類型があって、こんな感じ。

特許付与型 審査して特許付与するけど、秘密期間中は公開されない。という意味では日本の秘密意匠の制度に近いか。 例) ドイツ、イタリア、スペイン、カナダ、中国、ブラジルなど

審査凍結型 秘密期間中は審査が凍結され、期間経過後に審査が再開される。 例) アメリカ、イギリス、フランス、韓国、インド、シンガポールなど

特例法規定型 別法によってそもそも特許対象外としたり、特別な手続を定めたりするパターン。 例) ルクセンブルクスウェーデンノルウェーなど

秘密特許なし 例) 日本、オーストリアアイルランドポルトガル、メキシコなど

(より詳しくは以下論文の後半をどうぞ)(pdf)
『特許制度に基づく技術情報の公開による大量破壊兵器の拡散リスク』八木雅浩(2014)

日本にもかつてはあった

日本でも明治32年法では秘密特許制度を採用していたが、新憲法の施行に伴う昭和23年法改正で廃止した。このタイミングで軍事っぽい制度はいろいろ廃止したということなのですかね。

実務的にはFFLとセット

国内出願を秘密にしたのに、同出願人が外国にした同内容の特許出願が外国から公開されたら意味ないから、外国出願について国の許可(FFL:foreign filing license)が必要になる制度とセットになると思われる(めんどくさい

中山基本書での言及

特許法 第4版 (法律学講座双書)

特許法 第4版 (法律学講座双書)

アメリカとの間では協定があって、アメリカで秘密指定されている特許出願は日本に入ってきても公開できない。そのための細則もある。ただ、アメリカに出願された内容と無関係に同内容の出願があった場合、理論上はダブルパテントを生む可能性があり問題が残る。

吉藤基本書での言及

秘密特許制度は開示を原則とする特許制度の趣旨と矛盾するという批判があるが、国には開示されているわけで、国はその技術を公開するもしないも自由に決定することができる状態にあるといえるので、矛盾しない。
// 「発明の公開の代償として権利付与」というときの公開と、64条でいう公開と、66条でいう公報による公開は、それぞれ趣旨が異なる

日本アカデミアでの言及

論文テーマとしてたくさん書かれているわけでもなさそうですが、ないわけでもないです。最近だと東大の玉井先生が積極的に取り上げられていますね。
HERMES-Catalog

秘密特許に関する玉井先生へのインタビューは以下。玉井先生は安全保障のために制度導入すべきという立場のようです。
間違いだらけの日の丸特許戦略:日経ビジネス電子版

弁政連は推してる

日本弁理士政治連盟は昨年に、日本は秘密特許制度を導入すべしという提言をしています。まあ一般論として制度が複雑で面倒な方が弁理士は得するので、ポジショントーク的には納得
弁政連フォーラム第320号 — 日本弁理士政治連盟

なぜこのタイミングか

秘密特許の制度というのは軍事特許の制度なので、それ系の法改正を進める現内閣がこれを進めるのは納得感。
あと、これ始めたら特許庁の負担は大きくなると思いますが、特許庁は景気良いみたいですし、うがった見方をすれば、たくさんいる任期付審査官の今後の活用どころを探しているみたいな話もあるみたいなので、その辺の事情もなくはないのかも。

個人的には

よくわからないのですが、そんなに意味あるんですかねこれ。インターネットがない時代は国家が出す公報によって世の中に広く知られる意義は大きかっただろうので、逆に秘密にすることにも意味はあったんでしょうけど、これだけ情報流通の発達した現代で、特許出願だけ秘密にしたって論文出たりなんだりするのは止められないでしょうからね。マジでガチに国家機密プロジェクト的なやつならそもそも特許出願なんかしないでしょうし。知財従事者の仕事が増えるという意味では実益あると思いますけど。玉井先生の論文は読めていないのですが、立法事実のようなものも書かれているのでしょうか。玉井先生の論文がよりどころになっていく(すでになっている?)のかなという気はします。