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テイラー・スウィフト「The Man」和訳。あるいはアメリカのフェミニズムと映画「バービー」について

まだまだツアーが続くテイラー・スウィフト旋風、鳴り止まないですね。昨年の夏ですが、私もサンフランシスコ・ベイエリアのリーバイ・スタジアムでいってきました Eras Tour。かっこよかった。

カリフォルニアの Swifties が目をキラキラさせながら楽しそうにしていて、こんなに大人気だとは知りませんでした。まさに社会現象。道路混みまくりの交通機関も乱れまくり、もともと数少ないサンフランシスコ・ベイエリアの電車も臨時列車が出る始末。↓これは私がこの時に撮りました。アメリカのコンサートは録画&公開オッケーなのが多いです。

この「The Man」、日本で聴いていたときはあんまりピンときてなかったんですが、アメリカで暮らして少し立体的にみえてきたような気がしています。というわけで、独断と偏見による和訳と解釈を。

The Man - Taylor Swift (ザ・マン/テイラー・スウィフト

I would be complex, I would be cool
They'd say I played the field before I found someone to commit to
And that would be ok for me to do
Every conquest I had made would make me more of a boss to you

奥が深いっていわれるはず かっこいいといわれるはず
多くの浮名が流れるのも これという人を決めるための過程と思われるはず
成し遂げてきたことは 頼りにされる理由になってるはず

この曲はきれいな起承転結になっていて、「起」の部分です。ここまで全ての文の動詞が仮定法で(赤字部分)、なんかわからんけど仮定の話をしてるな、そうならなかった希望の話をしてるな、と思いながらききはじめることになります。なんか不満げです。ちなみに英語コミュニケーションにおいて動詞の形が過去形なのか現在系なのか進行形なのか未来なのか仮定なのか、というのは日本人が思っている以上に重要な意味を持って内容を決定付けます。ちなみに conquest というのは口語では異性を口説き落とすといったような意味を持つので、そういう意味合いも連想させているように思います

I'd be a fearless leader, I'd be an alpha type
When everyone believes ya, what's that like?

勇敢なリーダーだと思われるはず とびきり優秀だと思われるはず
みんなにそんな風に信じられたら どんな感じなの

ここまで「承」です。「起」を受けた仮定の話が続いています。

I'm so sick of running as fast as I can
Wondering if I'd get there quicker if I was a man

全力で走るのにうんざりしてる
色々もっとすんなりいってるはず もし私が男だったらね

「転」きました。これまでぜんぶ仮定法だったことの伏線回収です。さっきまでのずっと仮定の話は、「もし私が男だったら」ああいう風になっていたはずなのに女だからそうなってない、というわけです。

And I'm so sick of them coming at me again
'Cause if I was a man , then I'd be the man
I'd be the man
I'd be the man

批判されるのにうんざりしてる
だって私が男だったら 私こそ「漢だ」って讃えられるのに
私こそ漢なのに
私こそ漢なのにね

「結」です。ここの a man と the man の使い分け(太字部分)がフィニッシュブローで、"the man" というのはアメリカでは特別な意味をもって、何かを成し遂げた人を讃える言葉です。 "you're the man!" というと、やったね!さすが!みたいな。この the man はその the man です。日本でも男ではなく「漢」という字を使ってそんな感じを表現したりしますね。余談ですが、ここの "I'm so sick of them coming at me again" というのは今のところの最新シングル Anti-Hero でも "All of the people I've ghosted stand there in the room"というくだりがあるのとなんとなく共通する気がして、テイラーは「売れたし人気者だからすごく沢山の人が寄ってくるのは有難いんだけど疲れるし申し訳ないけどうんざりするし相手しきれない」みたいな感情をちょいちょい出してきます。

They'd say I hustled, put in the work
They wouldn't shake their heads and question how much of this I deserve

活発な働き者だっていわれるはず
いちいち否定したりそんなに価値があるのかって疑問に思ったりしないはず

What I was wearing, if I was rude
Could all be separated from my good ideas and power moves?

私が何を着てたって もしちょっと失礼な態度をとったとしても
それは私の冴えた発想や能動的な行動とは関係ないでしょ

And they would toast to me, oh, let the players play
I'd be just like Leo in Saint-Tropez

私に祝杯をあげて 好きにやらせてるはず
サントロペで好き勝手やってるディカプリオのようにやれてるはず

I'm so sick of running as fast as I can
Wondering if I'd get there quicker if I was a man
And I'm so sick of them coming at me again
'Cause if I was a man, then I'd be the man
I'd be the man
I'd be the man

全力で走るのにうんざりしてる
色々もっとすんなりいってるはず
もし私が男だったなら
批判されるのにうんざりしてる
だって私が男だったら 私こそ「漢だ」って讃えられるはずなのに
私こそ漢なのに
私こそ漢なのにね

What's it like to brag about raking in dollars
And getting bitches and models
And it's all good if you're bad
And it's okay if you're mad
If I was out flashing my dollars
I'd be a bitch, not a baller
They paint me out to be bad
So it's okay that I'm mad

たっぷりお金を稼いで
ビッチとモデルと好き放題やるのってどんな感じなんでしょうね
男ならどんなに悪びれることなく振舞ったり怒ったりしても全て受け入れられる
もし私がお金をみせびらかしたら 成功者ではなくビッチだといわれるでしょう
こんなに悪くいわれてたら イヤになるのも当たり前でしょ

解釈

というわけで、A man と The Man の使い方がこの詞の最大の仕掛けなわけですが、この Eras Tour にアメリカ中が熱狂していた昨夏、同じように "The Man"という言葉が印象的に使われる映画がアメリカで大ヒットしていました。

バービーです。この映画はフェミニズムといわれたりするようで、私は不勉強ながらフェミニズムについて正確に理解していないので何もいえないのですが、この映画がただ楽しいハチャメチャ映画でありつつも、何らかの生き難さのようなものをひとつのテーマにしていることはわかります。

バービーはアメリカでは女性の自立を象徴している面があるようです。かつて、アメリカにおいて女性とは家の中で家事をする者で、綺麗な金髪女性とは何もできないバカな性搾取の対象と考えられていたようなのです。それを変えたのがバービーでした。医者のバービー、大統領のバービー、ジャーナリストのバービー、宇宙飛行士のバービー、弁護士のバービー。女性だって何にだってなれるんだと女の子たちを勇気付け、社会を変えていったのがバービーだったというわけです。私の同僚のアメリカ弁護士の女性たちも、この映画バービーが公開された時に楽しそうにこの映画の話をしていました。また、アメリカ女性弁護士がだいたい好きな映画といえばこれです。

Legally Blonde, 邦題キューティ・ブロンド。カリフォルニアに住んでいていて容姿ばかり気にしてバカだけど憎めないキャラのブロンド女性が、一念発起して勉強し、立派な弁護士になって男を見返す話です。日本ではB級コメディみたいな扱いだと思いますが、アメリカの女性弁護士はだいたいみんな観てるといわれています。

こういう、舐められがちな女性が知恵と勇気で何かを成し遂げるサクセス・ストーリー、テイラー・スウィフトはそんな女性たちの憧れのまなざしを受け止めるリアルバービーであり、アメリカにおけるプリキュアなのです。リーバイスタジアムでは、幼稚園くらいの小さな女の子もキラキラとした目でテイラー・スウィフトをみつめ、一緒に歌っているのが印象的でした。テイラーは子供の心もガッチリ掴んでいるようです。アメリカで街の本屋にいくと、幼児絵本のコーナーにテイラー・スウィフトものがたり絵本みたいなのが並んでいたのをみたときはビックリしました。みんなそんなに好きですかと。

先日、アメリカでグラミー賞の会場にいて賞をもらっていたと思ったら翌週に日本にいってコンサートを何本かやって、その週末にまたアメリカに戻ってきて彼氏がでるスーパーボウルにいって、そんなことしている間にまたアルバムつくったみたいですね。まじかと。Anti-Hero とかじっくり聞いてるともうちょっと休んだ方が良いんじゃないかと心配になってしまいますが、それもまた余計なお世話なのでしょう。

4月のニューアルバム、楽しみです。