「オープンソース」という語をOSIの意に反して使うことについて、コミュニティの規範を超えてどのような法的意味が形成されてきたのか(きていないのか)を少し整理しておきます。
最初に簡単にまとめておくと、「オープンソース」という語はOSIが使用し始めた当初、OSDに沿ったかたちで使われることを意図してアメリカ特許庁に商標登録出願しましたが(1998年)、記述的として拒絶され放棄されました。その後20年以上経っておきたオープンソースライセンスの表記をめぐるアメリカの訴訟で、裁判所は、原著作権者によって商用利用禁止条項が追加されたオープンソースライセンスから下流のライセンシーが商用利用禁止条項を削除することはできないのに、削除したように宣伝するのは虚偽広告だと判断しました(2022年)。
ちょっと何いってるかわからないと思いますが、結論としてはOSDに反した「オープンソース」という語の使い方を法的に排除できると判断した例はまだないけど、議論は蓄積されてきており、法的にオモシロな論点はけっこうあるという話です。
そもそも何が問題なのか
「オープンソース」という語の使い方が正しくない、といって炎上するケースはちょいちょいみかけます。記憶に新しいところだと日本ではこれでしょうか。東大の松尾研が大規模言語モデルをオープンソースといって公開したところ、商用利用禁止を謳っており、これはOSIが定める「オープンソースの定義」に反するためオープンソースというのはおかしい、という指摘を受けてオープンソースの文言を削除しました。 www.itmedia.co.jp
また、ソフトウェア業界で大きく話題になった例はこれでしょうか。Elasticsearchはオープンソースとして配布されていましたが、AWSなどがその成果にタダ乗りしていることに反発し、禁止事項として「製品をマネージドサービスとして他者に提供する行為」を追加しました。これもOSIが定める「オープンソースの定義」に反するため、オープンソースとはいえない、ということになり、独自のElastic Licenseを付して配布しました。これは「オープンソース」ソフトウェアではなく、「ソースアベイラブル」(ソースが使える)(Source-available)ソフトウェアということになっています。 www.elastic.co
なお、Elasticsearchはその後、AGPLv3を導入してオープンソースに復帰しています。 ソフトウェアライセンスに関するFAQ | Elastic
そもそもどういうことか
「オープンソース」というのはやんわりとソースが公開されていること、という程度に理解されている場合がありますが、もともとアメリカのOSI (Open Source Initiative) という組織が明確な意図をもって使い始めた言葉です。彼らはフリーソフトウェア運動の意志を汲みながらオープンソースの定義(OSD: Open Source Definition)として10箇条を定め、この定義に沿うものをオープンソースとして認定しています。ここでは、制限なく再配布できることをオープンソースの定義の一つに定めており、商用利用禁止を謳うのは「制限なく再配布」に反するので、それはもはや「オープンソース」ではない、というわけです。
オープンソースの定義 - Wikipedia
The Open Source Definition – Open Source Initiative
Licenses – Open Source Initiative
OSIは、このような規定や仕組みの策定だけでなく、オープンソースの語を世の中に広めるためのロビイ活動や、その後にオープンソースの定義に沿って多数の独自ライセンスが徒につくられたことによる混乱を抑える活動などを通じて、オープンソース活動を支援してきました。現代のオープンソースが「フリーソフトウェア」でもなく「シェアードソース」でもなく「オープンソース」として世に広まったのは、OSIが源泉といって良いでしょう。巷できく「オープン・イノベーション」や「オープン・クローズ戦略」がなぜ「シェアード・イノベーション」や「フリー・イノベーション」ではなく「オープン・イノベーション」であるのかといえば、OSIが「オープンソース」という語を広めたからでしょう。
しかし、一般に「オープンソース」という語から直感的にソースコードが公開されている程度のことは認識すると思いますが、OSDに定められているような定義までを一般に認識するわけでは必ずしもないでしょう。だからこそ上述したような「オープンソース」というラベルの誤用が起きるわけです。特にだますような意図なく、やんわりとソースを公開することをもって「オープンソース」といいたくなる気持ちはわからないではありません。それでは、オープンソースという語はOSDに適合したものにのみ使われるべきだ、という法的な根拠を見出すことはできるのでしょうか。
アメリカにおける「OPEN SOURCE」商標登録出願の拒絶
さて、OSIは当初、この独自な意味合いを持たせて使い始めた「オープンソース」という語を商標登録し、OSDに沿った適切な使用のみを許可しようとしました。USPTO(アメリカ特許庁)の記録はこちら。
Trademark Status & Document Retrieval
代理人がついていないので、本人出願でがんばってやってみたけどダメだった、ということのようです。ここで商標登録出願が拒絶されたのを放置し、そのまま権利化せず破棄されています。後にOSIの法務責任者(General Counsel)を務めたラリー・ローゼン(Larry Rosen/ Lawrence E. Rosen)は、これによってOSIはオープンソースという語を意図に沿ったかたちで商標登録することに失敗した、と述べています。
trademarked logos and GPL
どういうことか(商標編)
USPTOの記録は以下です。

アメリカの商標登録制度には、日本にはない証明商標(Certification Mark)という種別があって、これで出願されています。これは日本でいうと団体商標とか地域団体商標とかのような、審査機関としての出願人本人は使わないけど、一定条件で他人の商品/役務を審査して、基準を満たすと認定したものに使用させる商標です。OPEN SOURCE 出願は指定商品/役務のところを「コンピュータソフトウェア・ライセンシング(COMPUTER SOFTWARE LICENSING)」とし、国際分類をA(商品)としています。当時の国際分類はAが商品でBが役務なんですが、ライセンシングといえば役務っぽいところ、分類をA(商品)としていてチグハグですね。そしてこれはじゃあ分類をB(役務)にすれば良かったのかというというとそうではなくて、ライセンシングをするのはOSIであって、他者がライセンシングするのをOSIが認定するわけではありません。他者がOSIの認定に沿ったソフトウェアを提供することを証明商標によって証明したいわけですから、指定商品は「ソフトウェア」、分類はA(商品)として例えば以下のようにするのが適切だったでしょうか。
OPEN SOURCE
Certification Mark
Class A
Goods being certified: computer software
Certification standard: the software is distributed under a license satisfying the Open Source Definition.
こういった形式的な失敗もあったようですが、アメリカ特許庁において実体としても「オープンソース」は記述的(descriptive)とされて拒絶理由通知を受けたようです。記述的というのは、東京産のものについて「東京」とか、風邪薬について「ヨクナール」とか、そういうそのままやんけ、というのはダメですよという要件です。「オープンソース」が出願当時の1998年において記述的か、というのは反論の余地があったかもしれませんが、当時の拒絶理由通知は反論されることなく放棄(abondoned)されました。
ちなみに日本でもオープンソースが商標登録出願され、アメリカと同じように記述的として拒絶理由通知が出されています。日本ではソフトウェアなどのコア部分を削除した上で派生的な部分のみ登録されています(第4553488号)。その後に不使用取消審判で一部取り消されていますね。日本では使用証明なく更新できるのでいくつかの指定商品/役務の権利が維持されていますが、権利者がこれらを商標的使用態様で使用しているわけではなさそうです。商標登録制度をあまり正確に理解していない第三者に対する牽制というお守り程度の意味はあると思いますが、それ以上の実体としての意味はあまりなく、不使用取消審判が起きればひとつひとつ削られていくようにも思います。
j-platpat
アメリカにおいて裁判所が一定態様のもとで「100%フリーでオープンソース」とした文句を虚偽広告と判断
商標登録としては上の例で以上終了なんですが、アメリカではオープンソースの表記をめぐって起きた Neo4j v. PureThink という事件で、いろいろ込み入った状況下ではありますが、北カリフォルニア地裁は商用利用禁止条項のついたライセンスについて「100%フリーでオープンソース」とした文句を虚偽広告と判断しました。
OSIはこの事件について、「裁判所がオープンソースでないものをオープンソースと称することを虚偽広告と判断した」というブログ記事を発表し、またOSDの作者であるぺレンズも「オープンソースは商標登録していないものの、裁判所がその語は正しく使うべきと判断した」といったようなコメントをしています。これだけ読むと、まるでOSDに沿った「オープンソース」の語の使い方が正しいものと裁判所に認められたような気もしますが、この解釈には注意が必要です。
(OSIのブログポスト) https://opensource.org/blog/court-affirms-its-false-advertising-to-claim-software-is-open-source-when-its-not
(ぺレンズのコメントがある The Registerの記事) https://www.theregister.com/software/2022/03/17/court-says-non-open-open-source-code-is-false-advertising/511542?utm_source=chatgpt.com
どういうことか(不競法編)
事件の経緯はこうです。Neo4j社は、Neo4jと名付けたグラフデータシステムに、OSI認定のオープンソースライセンスであるAGPLv3を付して公開していました。しかし、Elasticsearchと同じようにテックジャイアントにタダ乗りされることに反発し、商用利用禁止条項(Commons Clause)を追加します。この時点で、Neo4jに付されたライセンスは厳密にはオープンソースではなくソースアベイラブルになったといえるでしょう。PureThink社らは当初はNeo4j社の正規なパートナーシップを結んでNeo4jを使っていましたが、後に関係がこじれた後もNeo4jをオープンソースとして使いたかったので、Neo4jのプロジェクトをコピー(フォーク)してONgDB (Open Native Graph Database)と名付けたプロジェクトを開始して商用利用禁止条項を削除したAGPLv3を付し、「フリーで100%オープンソースなNeo4jのリプレイスメント」と謳って利用しました。これに対し、Neo4j社がPureThink社らを、契約違反、著作権侵害、虚偽広告として裁判所に訴えました。
裁判所はまず、Neo4jの著作権はNeo4j社にあり、そのプログラムをどういったライセンスであるかを決めるのはNeo4j社であって、下流にいるPureThink社らがそれに反して商用利用禁止条項を削除して利用することはできないとしました。これにより、PureThink社らの行為はライセンス違反であり、著作権侵害かつ契約違反と判断しました。
その上で、PureThink社らによるライセンス条件の変更は認められないから、PureThink社らが配布しているプロジェクトに実質的に付されているのは商用利用禁止条項のついたAGPLv3というべきで、これを「100%フリーでオープンソース」とするのは虚偽広告であると判断しました。
全裁判記録
https://www.courtlistener.com/docket/16272543/neo4j-inc-v-purethink-llc/
北カリフォルニア地裁の仮差止命令
https://law.justia.com/cases/federal/district-courts/california/candce/5:2018cv07182/335295/216/
巡回裁判所の判決(地裁の仮処分を維持)
https://law.justia.com/cases/federal/appellate-courts/ca9/21-16029/21-16029-2022-02-18.html
北カリフォルニア地裁の最終判断($597,000の損害賠償と恒久差止命令)
https://www.casemine.com/judgement/us/66a08394dbcfce5a03285f56
ちなみにここで虚偽広告といっている根拠条文はアメリカ商標法であるLanham actの43条です。ここで根拠に商標法が出てくるのがまたややこしいのですが、アメリカでの商標法には登録されていない商標を守ることなど日本では不競法に当たるものが含まれていて、これは日本でいえば不競法2条1項20号の品質等誤認惹起行為というやつです。
Lanham act §43 (15 U.S.C. §1125)
https://www.bitlaw.com/source/15usc/1125.html
不正競争防止法2条1項20号
https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000047
感覚的には、原著作権者であるNeo4j社が自身の著作物に商用利用禁止条項を追加したAGPLv3で配布していたのを、原著作権者の意に反して商用利用禁止条項を外して利用するとかそりゃあダメなんじゃないの、という気がします。これに対し、裁判の中でPureThink社がした建設的な反論のうちのひとつは、AGPLv3のSec.7に基づくものでした。
https://choosealicense.com/licenses/agpl-3.0/
Section 7.Additional Terms.
…If the Program as you received it, or any part of it, contains a notice stating that it is governed by this License along with a term that is a further restriction, you may remove that term. …
AGPLv3には、ライセンス自体に対する追加的な制限(further restriction)は、利用する際に削除して良いことが記載されているのです。商用利用禁止条項はAGPLv3に対する追加制限なのだから、このSec.7に基づいてそれを削除することは認められているじゃないか、というわけです。
これは説得力がありますよね。そうかも、と一瞬思います。一瞬思いますが、二瞬目に、いやそんなに都合よく解釈するのも変じゃないの、とも思います。そして裁判所は、いやいやこのライセンスは原著作権者の意思に基づくライセンスなのであって、全体として解釈すべきで商用利用禁止条項だけ勝手に削って良いものではない、といいます。裁判所にとって重要なのは、それがOSI認定ライセンスか、OSDに適合するかということではなく、そこにある商標利用禁止条項のついたAGPLv3の具体的なライセンスの文言をどう解釈するかでした。そしてそこにある原著作権者の意思たるライセンス全体からこのSec.7の位置付けを考えれば、このNeo4jは自由に利用して再配布して良いけど、中流のライセンシーがもしさらなる制限、例えば利用料を払えとかそういうのを追加した場合は、さらなる下流のライセンシーはそれを削除して良いよ、といってるものと、素直に読めます。原著作権者の意思を無視して原著作権者がつけた制限を削除することはできません。
Defendants' representationthat ONgDB is a “free and open-source” version of Neo4j® EE was literally false, because Section 7 of the Sweden Software Licenseonly permits a downstream licensee to remove “further restrictions”added by an upstream licensee to the original work.
そしてそう認定した場合、ONgDBが原著作権者がつけた商用利用禁止条項を削除することはできないから、実体としては原著作権者がつけた商用利用禁止条項があるものとして扱うべきで、そうすると「100%フリーでオープンソース」というのは嘘だから虚偽広告だといってるわけです。商用利用禁止条項があるからオープンソースじゃないとか、OSDに沿ってないからオープンソースじゃないとかは言ってなくて、利用制限があるんだから「100%フリーでオープンソース」は嘘だよね、といってるわけです。
しかしこれは別にAGPLv3の敗北ではなくて、AGPLv3は単なる飾りではなくちゃんとした有効なライセンス文としてしっかりと法的役割を果たしている例だといえると思います。なお、巡回裁判所はこの判断は判例として拘束するものではない(NOT FOR PUBLICATION)としています。
ちなみに裁判所はOSDにもOSIにも言及していませんし、それどころか、商用利用禁止条項のついた状態のAGPLv3を「オープンソース」といっている箇所もあります。
In May 2018, Neo4j USA released Neo4j EE version (“v”) 3.4, which they continued to offer under an open-source license; however, they replaced the AGPL with a stricter license, which included additional restrictions provided by the new Commons Clause. First MSJ Order 3. The Commons Clause prohibited the non-paying public from engaging in commercial resale and certain commercial support services. Id. This stricter license is referred to as the “Neo4j Sweden Software License. Id.”
ここの an open-source license はソースコードが公開されてるんだからオープンソースでしょ、という単にふわっとした言葉の使い方でオープンソースといっている例そのままで、特にOSDに沿ってるとか気にしていないことがわかります。
そしてこの裁判は実はまだ終わっていません。地裁の判決に対してさらに控訴されており、FSFがアミカスブリーフを提出しています。曰く、さらにメタ視点からAGPLv3自体がFSFの著作物であり、Sec.7はこのAGPLv3でソースコードを配布する原著作者がつける追加制限さえも削除できることを意図したものである、としています。
https://www.fsf.org/news/fsf-submits-amicus-brief-in-neo4j-v-suhy
というわけで
今でも、OSDに沿っていないものを「オープンソース」と謳うことが法的に制限されるとはいえませんが、オープンソースとソースアベイラブルの区別の議論や、最近ではオープンソースAIの定義なども通じて、OSIやFSFの活動は着実に法的意味の形成を促しているといえるでしょう。
The Open Source AI Definition – 1.0 – Open Source Initiative
もちろんこれらはアメリカの判決なので、日本の司法がどう判断するかは別の話です。ですが、日本で同様の争いが生じた場合に、このような米国での議論が比較法的な参考資料となる可能性はあるでしょう。こういう始めはコミュニティの規範だったものが、法的意味を獲得していくのをリアルタイムでみていくのは面白いですね。
その他の参考文献
(弁護士Kyle E. Mitchellによる解説)
https://writing.kemitchell.com/2022/03/17/OSI-Neo4j-PureThink.html
(Finnegannによるオープンソースライセンスは著作権ライセンスであって商標ライセンスを含まないという解説)
https://www.finnegan.com/en/insights/articles/open-source-software-copyright-licenses-did-not-cause-trademark-to-be-abandoned-under-naked-licensing-theory.html
(裁判所の判断に対するFSFの抗議)
https://sfconservancy.org/news/2023/feb/09/kuhn-neo4j-purethink-expert-report/

