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テイラー・スウィフト「I Knew It, I Knew You」和訳と考察

あ、前回もテイラー・スウィフトでブログかいたのか。忘れてた。まあいいか。書きます。

テイラー・スウィフトがトイストーリー5のために書き下ろした曲が昨日発表されて話題になっています。アメリカで暮らしているとマジで一年中なんやら話題をみかけるテイラー・スウィフト、久々の新曲は原点回帰したようなカントリー風。はなればなれになって会えない大切な誰かを思う気持ちにぶっ刺さります。泣いた。

以下に日本語訳の拙訳と、少しの考察を置いておきます。


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I Knew It, I Knew You - Taylor Swift

[Verse 1]
夏の日の草の間にかすんでみえる君を思い出していた
パラシュートで自由落下するように冒険したよね
はだしで走りまわる君の足音をおぼえてる
あの頃からずいぶん経ったね
人生はそんな日々を遠くに追いやるけど
でも今夜 また君に会えた

[Chorus]
そして君を大好きだったことをはっきり思い出した
それは何よりも大事なことだった
窓のひかりにあの頃と同じ笑顔の君をみつけた
ねえ ひさしぶりだね
でもわかってたよ ずっと君を思っていた
ずっと知ってた 君のことはなんだって知ってる

[Verse 2]
君のことはなんだって知ってる ムードリングみたいにコロコロ気分が変わることも
君だって私のことはなんでも知ってるはず 兄弟のように喧嘩もした
くねった道を車が去っていくのをみながら
もう二度とあえないかもしれないと思った
でも愛はあんな日々をまた人生に引き寄せるんだね
君はただ「やあ」っていっただけだけど

[Chorus]
君を大好きだったことをはっきり思い出した
それは何よりも大事なことだった
窓のひかりにあの頃と同じ笑顔の君をみつけた
ねえ ひさしぶりだね
でもわかってたよ ずっと君を思っていた
ずっと知ってた 君のことはなんだって知ってる

[Bridge]
さよならをいいながら川のように泣いたのは気のせいだったかもね
いまこうして一緒にいるんだから

[Chorus]
私が君をどんなに好きだったか 君もちゃんと覚えていてくれた
それは何よりも大事なことだった
窓のひかりにあの頃と同じ笑顔の君をみつけた
ねえ ひさしぶりだね
でもわかってたよ ずっと君を思っていた
ずっと知ってた 君のことはなんだって知ってる

genius.com

以下、原文をGeniusから引用します。

[Verse 1]
I knew you through the daze of the blades of the grass in summer
Parachutes for the free fall of being younger
I memorized the sound of your bare footsteps
Running wild, it's been a long time
Life has ways of leaving those days behind
But seeing you tonight

[Chorus]
I remembered I loved you
Came back when it mattered, I saw you
Standing there in the light of the window wearing that same smile
Man, it's been a while
But I knew it, I knew you
I knew it, I knew you

[Verse 2]
I knew you, all your blues like a mood ring changing colors
You did too, therе were times we could fight like brothers
I watched you drive around the bend for
What I thought would be the last time I saw my friend
But love has ways of bringing things back to life
All you said was, "Hi"

[Chorus]
And I remembered I loved you
Came back when it mattered, I saw you
Standing there in the light of the window wearing that same smile
Man, it's been a while
But I knew it, I knew you (I knew, I knew)

[Post-Chorus]
I knew it, I knew you (I knew, I knew)
I knew it, I knew you (I knew, I knew)

[Bridge]
Oh, the rivers I cried when we said goodbye
Wondering if I'd made it up in my mind
But now you look me in the eye

[Chorus]
And you told me I loved you
Came back when it mattered, I saw you
Standing there in the light of the window wearing that same smile
Yeah, it's been a while, oh-oh
Wearing that same smile
Man, it's been a while (Man, it's been a while)
Wearing that same smile
Man, it's been a while
But I knew it, I knew you (Ooh, I knew you, I knew)

[Post-Chorus]
I knew it, I knew you
Wearing that same smile (Ooh, I knew you, I knew)
I knew it, I knew you (Ooh, I knew you, I knew)
I knew it, I knew you (Ooh, I knew you, I knew)
I knew it

いくつかの考察と解説

曲の発表と同時にテイラー・スウィフト自身が文章を発表していて、それによれば、この曲はトイストーリーのキャラクターであるジェシーのものであること、テイラー・スウィフト自身が5才の頃からトイストーリーのファンであったことが語られています。

ジェシーといえばトイストーリー2から登場した、主人公でカウボーイのウッディに対をなすカウガール。トラウマを抱えながらも勇敢で奔放なキャラクターで、ディズニーの中でも特に女の子から支持される人気キャラです。テイラー・スウィフトが添えた動画は自身が子供の頃にジェシーのような恰好をしたもの。テイラー・スウィフトはカントリー出身なのでイメージ通り、ここ数年の先進的なキラキラ路線から原点回帰して、古き良きアメリカも歌えるアメリカを代表する歌姫の面目躍如といったところです。

en.wikipedia.org

トイストーリーはアニメ映画として子供に楽しいだけでなく、物語の完成度も高く大人の心もしっかりとえぐってくる作品群で、新作も楽しみですね。アメリカでは6/19から、日本では7/3から劇場公開予定です。


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トイストーリー2で登場したジェシーは、もともとエミリーという女の子が持っていた人形でしたが、エミリーが成長しておもちゃよりオシャレやパーティに気が向くようになると遊ばれなくなって寄付に出されてしまいます。ジェシーがそれを回想するシーンで流れていたWhen She Loved Meがまた名場面の名曲で、アカデミー賞のベストオリジナルソングにもノミネートされました。はなれてしまったエミリーとの楽しかった日々を思うさみしくも美しい曲です。


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"I knew that she loved me"など、今回のテイラー・スウィフトの曲の元ネタといえるラインもあります。テイラーの今回の曲はこのトイストーリー2の名曲に対をなすアンサー、続編ともいえるでしょう。トイストーリー2のWhen She Loved Meは切ない別れの曲、トイストーリー5の本作は27年ぶりの再会の曲というわけです。

この背景を踏まえて、少し翻訳ポイントに注釈します。

[Verse 1]
I knew you through the daze of the blades of the grass in summer
Parachutes for the free fall of being younger
I memorized the sound of your bare footsteps
Running wild, it's been a long time
Life has ways of leaving those days behind But seeing you tonight

このバースはまあほとんどそのまま単語を日本語訳する直訳で意味が通る気がしますが、ポイントになるのはLife has ways of leaving those days behindという言い回しでしょうか。~have ways of + -ing で、~は-ingするものだ、というような使われ方をします。
・Time has a way of healing wounds.(時間が経てば傷は治るものさ)
・Things have a way of working out.(物事ってのはけっこうなんとかなるもんだ)

[Chorus]
I remembered I loved you
Came back when it mattered, I saw you
Standing there in the light of the window wearing that same smile
Man, it's been a while
But I knew it, I knew you
I knew it, I knew you

I remembered I loved you は直訳すれば「私はあなたを愛していることを思い出した」となるところ、日本語では「愛している」というとロマンティックな好意にきこえがちですが、ここでは友人としてとてもとても「大好きだった」という言い回しの方がしっくりくるでしょう。

そしてこのrememberという単語は知っていたようで私にとってはアメリカにきてからニュアンスの理解に苦労したもののひとつで、ここに使われているようなrememberedという言い方を知ったのはアハモーメントでした。rememberは正確にいうと「覚えている」よりは「思い出す」です。既に脳内メモリにあることは前提で、それを読み出す行為。覚える、はmemorizeとかですね。rememberは既にmemorizeして既に脳内にある情報をフェッチして読み出す。その電話番号を覚えとくよ、とかいうときはI'm memorizing it. とかであって、I remember it.ではないです。そしてこの動詞の時制というのは知識として思っていた以上に重要な役割を果たして文の意味を決定付けます。現在形は習慣的な状態や行為、過去形は過去の一時点での行為、現在進行系は今まさに行っている行為。Do you remember it?(それ覚えてる?) と聞かれた時、I remember it.(現在形;覚えてるよ。脳内メモリから思い出す必要もなく脳内キャッシュに入ってるよ)、I remebered it.(過去形;言われて思い出したよ)、 I'm remembering it. (現在進行系;ちょっとまって、いま思い出してるから。えーとえーと。)では同じ動詞でも時制で意味が異なります。というわけで、ここでI remembered I loved youといってるのは、少しぼんやりしかけていたけど私はあなたを愛していたことを確かに記憶していて、それが意識の表面にはっきりよみがえった、というわけです。

次のmatteredは動詞で、Black lives matterのmatterですね。It matters, それが大事だ、という感じで日常会話でもよく聞きます。

テイラー・スウィフトにManといわれると皮肉たっぷりのThe Manを思い出して身構えますが、ここは特にそういう含意はないと思ってよいでしょう。ただ単におっと、やあ、みたいな感嘆詞としてのManです。ちなみにThe Manもかつて和訳したのでよろしければこちら。
ysmatsud.hatenablog.com

そしてタイトルにしてパンチラインのI knew it, I knew you。エモい。I knew it, I knew you、は直訳すれば「私はそれを知っていた、私はあなたを知っていた」ですが、日常会話でI knew it、というニュアンスは、やっぱりね、実は100%確信していたわけではないけど私にはわかっていたよ、物事はまだそうなっていないが私はそうなると思っていたよ、ほら私が思っていた通りでしょ、といった感じです。テイラーがknewのところで少しおどけたような、それでいて感極まったような弾けた高い声を出すのがまたそんなような愁いを帯びて良いですね。I knew youというのは単に知識や情報として人を知っているのではなく、しっかりとした心を通わすような経験を重ねて性格や人柄などを理解している、というニュアンスです。

そういった、かつては大好きだった人とはなればなれになり、どうしても会いたかったけど会えないままだった、そして時が流れる中で思い出はどうしても薄れかけていくけど、ひとめ会った瞬間にいろんなことを思い出し、大好きだったこと自体が何よりも素晴らしかったという実感が溢れ出した。あの時は本当にすごく仲良しだったし、その関係はかけがえのないものだったと信じているけれど、これだけ長い間はなれていると多少の疑いや迷いを感じた瞬間が全くなかったわけではない。でもこうしてやっとまた会えた今、あの頃と同じように笑って、ほら、思っていた通りでしょ?疑ったことなんかなかったよ?だってあなたのことはなんだってわかってるんだからねッ!?という、そういう複雑な不安と再会の喜びが混じります。

[Verse 2]
I knew you, all your blues like a mood ring changing colors
You did too, therе were times we could fight like brothers
I watched you drive around the bend for
What I thought would be the last time I saw my friend
But love has ways of bringing things back to life
All you said was, "Hi"

mood ringというのは体温などの温度で色の変わるおもちゃですね。

ここのYou did tooは、I knew youの対でYou knew me,ということでしょう。

I watched you drive around the bendというのは上記にYoutubeリンクを貼った、トイストーリー2でWhen She Loved Meが流れるジェシーの回想シーンの最後の2:15くらいからの場面です。エミリーに捨てられ、くねった道を車で去っていくのを呆然とみています。

次のBut love has ways of bringing things back to life(でも愛はあんな日々をまた人生に引き寄せる)は、バース1のLife has ways of leaving those days behind(人生はそんな日々を遠くに追いやる)に対応した伏線回収ですね。そして君がただ"Hi"(やあ)と声をかけてきた一言で堰を切ったように色んな思いが溢れ、またサビへ。

[Bridge]
Oh, the rivers I cried when we said goodbye
Wondering if I'd made it up in my mind
But now you look me in the eye

the rivers I criedというのは川のように泣く→大泣きする、という聞きなれない表現ですが、アメリカのポップカルチャーではcry me a riverとして使われるようです。どちらかというと同情を引くために大げさに泣きわめく→知るかずっと泣いてろ、という皮肉を込めた表現のようですが、ここではそれを逆の立場から使っているわけですね。

https://www.reddit.com/r/EnglishLearning/comments/18v53z2/comment/kfomkle/
Cry Me a River - Wikipedia

というわけで

本曲は既に来年のアカデミー賞のベストオリジナルソングの筆頭候補などともいわれています。アカデミー賞授賞式でこの曲をパフォーマンスするテイラーはみてみたいですね。

Youtubeにはトイストーリー5制作陣のインタビューなどが続々と公開されていて、ディレクターが本作はジェシーを中心として物語が進んでいくことを明かしています。というかこのテイラー・スウィフトの曲ではジェシーがエミリーと再会することが思いっきり示唆されているというかネタバレしてますけどそこは良いんでしょうか。ここまでいっといてジェシーがエミリーと再会できてなかったらそれはそれで逆の意味で泣く。 www.youtube.com

声優陣のインタビューはこちら。ウッディのトム・ハンクスもバズのティム・アレンもすっかりしっかり爺さんだなあ。まあ1作目からだと30年だもんね、そりゃそうだよね。そしてこの右にいるカエルパッドの声のおねえさん、どこかでみたなーと思ったら一昨年のアカデミー賞候補になった韓国のパストライブズのおねえさんですね。予告を見る限りだとちょっと意地悪な感じにみえますが、まあそれだけでは終わらないでしょう、トイストーリーですから。楽しみです。
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AIフェイク対策としてのテイラー・スウィフト商標登録出願

アメリカの弁護士が、テイラー・スウィフトの新しい商標登録出願が公開されたのをブログ記事にして話題になっています。いやあ、一個人のブログなんですけどBBCやらVarietyなんかの有名メディアに引用されて一躍有名人、アメリカンドリームですね。私も何かいちはやく特許ネタをみつけてブログ記事かいてアメリカンドリームを目指すか。

Taylor Swift Moves to Trademark Her Voice and Image as AI Threats Grow - Gerben IP

Taylor Swift files to trademark voice and image after AI concerns

Taylor Swift Files to Trademark Voice and Likeness to Protect Against AI Misuse

ともあれ、テイラー・スウィフトといえばアメリカ現代女性の騎手、もはや音楽産業の一人というよりテイラー・スウィフト自体が産業といわれる影響力を持ち、泥沼化した古巣の事務所との原盤権に関するイザコザでは全ての楽曲を高品質にレコーディングし直した'Taylor's Version'で原盤を無力化し、アメリカの音楽業界を永遠に変えたといわれたりします。

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そんな音楽業界を切り開くテイラー・スウィフトの知的財産管理チーム TAS Rights Management, LLCによる今回の3件の商標登録出願が、AIフェイク対策だといわれています。テイラー・スウィフトの声を音商標として、姿を図形商標として登録することでAIフェイク対策になるという仮説に基づく戦略です。

音声1; https://tmng-al.uspto.gov/resting2/api/casedoc/cms/case/99784979/tmdocument/20260424162005244899SPE0003.wav
音声2; https://tmng-al.uspto.gov/resting2/api/casedoc/cms/case/99784980/tmdocument/20260424162012887775SPE0003.wav
画像

これはどうやらオスカー俳優のMatthew McConaugheyの法務チームが編み出した戦略に倣っていて、音声と姿画像を商標登録してAIフェイク対策になるというのはよくわからんですが、背後にある法律ロジックは Waits v. Frito-Lay, Inc. (1992)から来ているようです。

Matthew McConaughey trademarks ‘All right, all right, all right’ catchphrase in bid to beat AI fakes | Film | The Guardian

Waits v. Frito-Lay, Inc., No. 90-55981 (9th Cir. 1992) :: Justia

Waits v. Frito-Lay, Inc., 978 F.2d 1093 (1992): Case Brief Summary | Quimbee

この事件で、人気歌手のTom Waitsさんがコマーシャル広告には出ないことを信条としていたところ、スナック菓子のドリトスの広告にどうしてもTom Waitsさんの歌声を使いたかったFrito‑Lay社が、他の歌手に勝手にTom Waitsに似せた声で歌わせてドリトスの広告を配信。それを聞いた消費者はその声をTom Waitsさんだと思って大いに宣伝になったところ、Tom Waitsさんがこれを不当として訴えた。パブリシティ権など論点はいくつかあったようですが、アメリカ商標法であるLanham Actの論点も入っているのがおもろいです。このような消費者を誤解させる(misled consumers)虚偽表示は、誤認混同を招く(Confusingly similar)として$2.6 millionの損害を認めた、というわけです。Tom Waitsの歌声は商標登録されているわけではありませんでしたが、アメリカ商標法は日本でいう不競法も一緒になっていて、登録されていないものも保護されるのがミソですね。(Lanham Act §43(a))

15 U.S.C. 1125: False designations of origin; false description or representation, January 2023 (BitLaw)

登録されていなくても損害が認められるのだから、登録されていればなおさら、ということでしょうか。

ちなみにこれ関連の日本の新聞記事もいくつか読んでみたんですけど、相変わらず知財関連の記事は何となくの雰囲気で書いてるなというのが透けて見えて残念ですね。テイラー・スウィフトがAIでポルノ画像つくられたりとか政治プロパガンダに利用されたりとかに触れてる記事がいくつかありましたが、本件はそういう系の対策にはならないし関係ないんじゃないですかね、たぶん。ちょっと前にホリエモンがFacebookに勝手に画像使われた詐欺広告がでまくっててマジ迷惑なんだけどどうしようもない、みたいに怒ってた気がしますが、そういうのに対する対抗策のひとつにはなるかもしれない。

ところでテイラー・スウィフトのAIフェイクといえば、一世を風靡したKendrick Lamar "Not Like Us"の勝手AI生成があるんですけど最初にきいたときはゲラゲラ笑いました。トラウマになりそうなサムネイルも合わせて、明らかにテイラー・スウィフトの声でNワードを発するところなんかはヒヤヒヤしますが、Youtube上に残り続けてるということは特に文句いってないんでしょうか。本人たちもゲラゲラ笑ってることを願います。

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キングギドラ「公開処刑」とは何だったのか

さんざん擦られたキングギドラ「公開処刑」の話題ですが、リアルタイムで騒動をみていたKjと同年代の者として、自分が感じたようなことがいわれているのを意外とみかけない気がするので、ここに書いておきます。

結論からいうと、あれは「KjがZEEBRAを真似するのをやめないからZEEBRAが鉄槌を下した」というよりは、KjがZEEBRAに寄せていた瞬間は確かにあったもののそこから脱却して独自の道をいっていたところ、くすぶり続けていたコアなヒップホップファンたちのDragon Ash(ドラゴンアッシュ)嫌悪感情を利用して、ZEEBRAがキングギドラの再開をよりセンセーショナルにするための話題づくりとして突如ネタに使った、という見方です。私にはこうみえていた、という話でこれが真理だといいたいわけではありません。ただの思い出語りですが、事後的にあの騒動を知った方にはみえにくい視点かもしれません。

それでは、何が起きていたのかをDragon Ashを中心に時系列に思い出していきます。

1998年; Dragon Ashブレイク前夜

私がDragon AshとKjを知ったのは、「陽はまたのぼりくりかえす」、「Under Age's Song」が一部の音楽ファンの間で発見された頃でした。インターネットは既にあったものの今ほど情報豊かではなく、洋邦とわずMVを流しまくっている横浜ローカルTV局のTVKが貴重な情報源でした。私もカッコいい音楽を求めてまだブラウン管だったテレビでTVKをみまくって、後に伝説となる番組Saku Sakuなどを、初代MCのPUFFYの頃に毎朝ベッドの中から目覚まし代わりにみるともなくみていたりする学生でした。最初にDragon Ashを知ったのがいつだったかは忘れましたが、ミュージックトマトジャパンとかなんかそういう感じのTVKの音楽番組にまだ少年らしさのあるKjが出ていて、狭いスタジオで司会の人と話をしてUnder Age's SongのMVを流しているのはみました。Kjは当時はアフロヘアで、日本人離れしたオシャレな雰囲気と抜群の音楽センスが只者ではない感がすごかったです。私はすっかりファンになったのでした。

これらの楽曲が入ったアルバム「Buzz Songs」が9月に発売され、当時流行っていたMDプレーヤーで聴きまくりました。


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1999年; ブレイク

時は世紀末。前作までサポートだったDJのBOTSがDragon Ashに正式加入し、「Let yourself go, Let myself go」がリリースされました。いやあかっこよかったなあ。「ブレイク直前」感すごかった。ZeebraのリミックスアルバムにKjが「真っ昼間」で参加したのもこの頃。これも良かったですよねえ。後にプロデュースの方でよく出すような、メロディアスなリフを洒落たトラックにまとめてくるKj独特のこの曲の感じは、まだ粗さはあるもののほぼ仕上がっているようにきこえます。


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そしてついに出た!!「Grateful Days」。 ZEEBRAとACOをフィーチャーし、大ヒットして時代をつくった曲。これが売れたのは良かったのですが、同時にリリースされた「I LOVE HIP HOP」もまた売れまくったことで、当時「ハーコー」とかヘッズとか呼ばれていたコアなヒップホップファンの反感を買います。ストレートすぎるタイトルとふざけたMVがなんだか茶化しているようにも感じられ、外野からいきなりきた若造が場を荒らすんじゃねえ、というわけです。ちなみにこれは古典的なロックの名曲「I Love Rock'n Roll」のパロディで、I LOVE HIP HOPといいながら軸足をロックにおいているのですが、そういうのはあまり伝わっていなかったように思います。

Dragon Ashの新アルバム「Viva La Revolution」は大ヒットし、KjとDragon Ashは時代のアイコンとしてアイドル的な人気を獲得していきます。私にとっても間違いなく1999年に一番きいたアルバムだったでしょう。


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Kjは活動の場を広げ、Sugar Soulをフィーチャーした「Garden」、wyolicaの「風をあつめて」など、聴いてすぐに彼の作品だとわかるオシャレな音が広く支持され、音楽家としての実力を確立していきます。


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2000年; 展開

この頃からKjは他のアーティストたちと積極的に絡むようになり、それらの仲間とともに「TMC」と呼ばれる音楽イベントを主催します。ラッパ我リヤをフィーチャーした「Deep Impact」がヒットしたのもこの頃。


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これ以前はテレビに出るような日本のヒップホップといえばスチャダラパーかDA.YO.NE.のようなお笑い色のあるものだったところ、Kjはそれらとは違う路線のカッコいいヒップホップをお茶の間に持ち込みました。が、それ故に、Dragon Ashがヒップホップの中心を担っているような印象を与えてコアなヒップホップファンは反感を強めます。ヒップホップ畑からTMCに参加していたラッパ我リヤやRIP SLYMEも、売れるために媚びを売るセルアウト野郎だと罵られました。

そしてリリースされた問題作の「Summer Tribe」。この曲でのKjの歌い方やMVでの振る舞いがZEEBRAの物真似だと大炎上。数々のヒップホップアーティスト、ラッパーたちが名指しこそしないものの、明らかにKjをディスるものだとわかる曲を出しまくります。ちなみに、この旬な頃に楽曲で名指しでKjをディスったのは、横浜の風林火山だけだと思います。かっこよかったなあ、風林火山。


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KjとDragon Ashは当時のネットで大炎上してディスられまくります。当時はまだいわゆるWeb 2.0の到来前でツイッターなどのソーシャルメディアはありませんでしたが、にちゃんねるにはディス板が立ちまくり、また当時「ZEEBRAの掲示板」という匿名掲示板があって、ZEEBRA個人の枠を超えた「ヒップホップとはなんぞや」論議が盛り上がっていました。私は当時大学生で、たぶんここに集まっていたメインはそのくらいの年齢層だったと思いますが、中学生か高校生かくらいの真摯なヒップホップ好きの少年が書き込んだ、「Dragon Ashの「ゲットーをゆるがす」というリリックが許せない。日本でぬくぬく育って、ゲットーというものがどういうものかわかっているのか。そんなこといっていいのか。」という訴えがすごく共感を呼んでいたのを覚えています。また、やたらと「シーンへのリスペクト」を強調するZEEBRAに対し、「シーンなんてものは存在しない」という議論が異彩を放っていたりもしました。

この掲示板にはZEEBRA本人も書き込みをすることがあって、ラジオで本人が言及することもありました。ちなみにこれはただの自慢なんですけど、私はこの頃、ZEEBRAのラジオ「BEATS TO THE RHYME」にFAXを送って読まれたことがあります。

この頃はZEEBRA本人もまだKjに好意的で、「男というのは本気になるとああいうガナリ声になるものなんだ」と擁護する発言をしていたと記憶しています。そしてこの頃、「ZEEBRAだってDMXのパクリじゃないか」などどいう声も出始めます。


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この頃はネットを開けばKjの悪口が書いてある、みたいな状況で、今の日本のインターネッツでもよくある、叩いて良いと一度認定されたものは執拗に叩き続ける空気が醸成されていました。この炎上しまくった「Summer Tribe」の次にDragon Ashが出した「Amproud」と「静かな日々の階段を」の2曲は、わざとらしいほど「Summer Tribe」から逆に振ったバンドサウンド、アコースティックサウンドでした。これが「Summer Tribe」への反省と言い訳のように聞こえたのは私だけではないはずです。


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2001年; 自重の1年

しかしDragon Ashへのディスの火は消せず、皮肉にもDragon Ashが引き金となった世間でのヒップホップ人口の増加がアンチDragon Ash人口も増大させます。Dragon Ashは新アルバム「LILY OF DA VALLEY」をリリースしますが、1997年のデビューから矢継ぎ早に曲を出しまくってきたDragon Ashはこの一年、一曲もシングルを発表していません。それはまるで、「Summer Tribe」への贖罪のようにもみえました。

一方で、Kjはこの年、 TMC や プロデュースユニットSteady&Co.の活動は精力的に続けます。クリスマスの名曲として今でも根強いファンのいるOnly Holy Storyなどもこの年に作られました。


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2002年; 「公開処刑」

そして自粛明けの2002年に発表された久々のDragon Ash名義のシングル「Life goes on」。これもまたギターのアルペジオから始まる、私はもうすっかりヒップホップから遠いところにいますよと強調するような曲でした。次の「FANTASISTA」もヒップホップから離れたパンク・ミクスチャーのバンドサウンドです。Kjの音を追ってきた人たちは、ああ、Grateful DaysやGardenのようなあの頃のあの感じの名曲はもう生まれないんだな、ということを受け入れざるを得ませんでした。


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それでもまだ、ヒップホップ好きの間でのDragon Ash叩きは鳴りやみません。

キックザカンクルーやリップスライムなどのキャッチーなヒップホップがすっかりヒットチャートの常連になり、Dragon Ashはヒップホップを広めた功労者ではなく、軟弱でチャラいものと誤解させた戦犯として叩かれ続けます。こうして日本のヒップホップ・マーケットも拡大してきたところで、喧嘩別れしたはずの伝説のキングギドラが復活するという噂が流れます。あの日本のヒップホップ・クラシックであり耳に痛い問題作である「空からの力」のキングギドラが、今度はどんなことを言い出すのかと、ビクビクしながらワクワクしたものです。

そして発表されたのがキングギドラの新アルバム「最終兵器」と、そこに含まれる「公開処刑」です。物々しいトラックにあやしげなBOY-KENのフックが絡むこの曲でZEEBRAは名指しでKjをディスりました。ちなみに2000年前後、BOY-KENは東京のクラブイベントにひっぱりだこで、しょっちゅうみかけました。1998年ごろに私が初めて渋谷あたりのオールナイトのクラブイベントにいったときのステージで、これまた日本人離れした歌と容貌のBOY-KENが会場を盛り上げまくり、「ここが現場だ!メディアではいえないことも俺はここでいってやるぜ、オマ〇コオマ〇コー!!」とやっていて圧倒されました。よくわからないけどすごい熱狂だぜ兄さん。楽しかったなあ。ともあれ、「公開処刑」はついに長年Dragon Ash叩きをしてきた人たちの溜飲を下げ、熱狂的に受け入れられて話題となります。こ、こえー。 さすがキングギドラ。彼らこそリアルでハーコー。 しかし、アンダーグラウンドからオーバーグラウンドにのし上がった日本のヒップホップをリアルタイムで追うとともに、Dragon Ashの動向も追っていた人は、こうも思いました。あの問題作「Summer Tribe」からはもう2年以上経っていて、Dragon Ashとしては違う方向へ舵を切り終えたようにみえた後です。

「なんで、今さら?」


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その後

ビーフとビーフで盛り上がるのもまたヒップホップ、これもそういうプロレスなのでは?ZEEBRAはDragon Ashからの応答を期待しているのでは?と巷では囁かされたりしましたが、そうはならず、Kjはただただ沈黙します。

しばらくして、たしかロッキンオンジャパンだかの音楽雑誌で、Kjがついにあの真相を語るみたいな長文インタビューが掲載されました。Kjは確か、「すごく落ち込んで悩んだ。音楽をやめようとも思ったけど、またやることにした。すごくいかしている女の子がいて、それが先輩の彼女だったとして、じゃあ手を出さないでただみてるだけなのかって、いやいくでしょ、っていう、ヒップホップに手を出したのはそういうことだったと思うことにした」というようなことを語っていました。これはちょっと、まあ、わかるようなわからないようなw

ともあれ、KjとDragon Ashは明らかにヒップホップと距離をとり、ラップを封印してあの頃のあの感じの曲はつくらなくなります。Kjが今でも「俺はバンドマンだから」、「ロックだから」と口癖のようにいうのは、なんだかまだあの頃の痛みから逃れようとしているようにもみえて、複雑な気持ちになります。

ヒップホップ側でも過去のものとしてKjに触れなくなった2010年、そこにあえて触れにいったのがDABO。2000年に横浜ベイホールであったNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのデビューアルバムのリリースパーティで、時間押しまくった挙句に酔っぱらったようなグダグダの深夜のステージの中でDABOとDELIだけキレキレのラップをしていたのに感動して以来、私が日本のヒップホップで一番信頼しているのはDABOなんですが、DABOがKjと曲を作ったときは興奮しましたね。これは俺にしかできない、といっていましたがいろんな意味でまさにそうだと思います。この曲の制作経緯が今でも読めるので是非。

https://ameblo.jp/dabo-blog/entry-10676437214.html


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この頃に発表された、Kj本人は登場しませんが、彼がプロデュースした「あの頃のあの感じ」があるこの曲も良かったです。


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2017年に窪塚洋介こと卍LINEとやったこれも好きです。窪塚洋介も同年代で若いころからみていて、地元も横須賀で親近感があるので、彼らが活躍しているのをみると、勝手に古い友人ががんばっているような気になります。


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ZEEBRAは最近になって当時のことをきかれ、「真似をやめてね、といったらやめてくれたので、それで良かった」みたいなことをいっていますが、本当にそうでしょうか。真似はやめていたものの、当時まだDragon Ashは叩くだけ叩いて良いみたいな空気は続いていたし、ギドラの復活に良い話題になるだろうから、これをネタに使っていっちょ金儲け、だったのでは?

この点、ケーダブの方が交わすのが上手いように思います。ケーダブは、この曲で痛烈にディスりながらも良好な関係を続けていたリップから「なんでディスるんですか!?」ときかれ、「ビジネスだよ」と答えたといいます。また、「あれはタイトルが良くなかった。公開処刑というタイトルが誤解も生んだ。もっとなんか、「弟たちへ」みたいなタイトルにしておけば良かった」みたいに振り返っています。さすがケーダブ。リアル。

Kjは最近になって出したJesse率いるThe Bonezとの合作の中盤で、なんとあの Grateful Daysと同じスマパンのリフで歌っています。これはあの痛みとまた改めて向き合っているということなのでしょうか。


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オスカー2025作品賞の全感想

2週間後に迫ったアカデミー賞2025、今年も事前にアメリカで Best Picture(作品賞) 候補10作を全部みたので記録として感想など。日本ではまだDuneしか公開されてないんでしょうか、よくわかんないんですけど。何かの参考になれば。

多少のネタバレを含みます。全部英語でみたので半分くらいしか話がわかってません。順番は独断と偏見による好きな順です。

1. Wicked

Wicked (2024 film) - Wikipedia

オズの魔法使い』に出てくる悪い魔女には実はこんな事情があったのでは、という二次創作。もともとは小説で、インターセックスとかわりと複雑な事情が絡む大人向けのおはなしだったのを、基本設定はそのままにポップな感じにして2003年にブロードウェイでミュージカル化して大ヒット。この映画はそのミュージカルを映画化したもので、曲や話の構成などは基本的に同じ。

なんやかんやいうてこれですね今年は。アカデミー賞でも昨年のバービー的に大いにネタにされるんじゃないでしょうか、いじりやすいし。めちゃ楽しかったです。派手に歌って踊ってドッカンドッカンワイワイ、そして主役の2人の歌が超絶上手い、画面がきらびやか。サンクスギビングを狙って公開された直後の週末にサンフランシスコ最強最大設備のIMAX映画館に観に行ったんですが、巨大な客席が満員で大盛り上がり、最後はスタンディングオベーションでした。

ピンクピンクした自意識過剰系優等生の異世界系ハチャメチャコメディという意味でも昨年のバービーと同じ系列にある気がします。アリアナ・グランデは子供の頃からこのミュージカルの大ファンで、オーディションでこの役を勝ち取って大歓喜。映画化にあたって制作陣から、人気曲のpopularをhiphop調にするのはどうかと提案があった時、即答で「絶対やめて。私がやりたいのはGlindaになりきることであって、アリアナ・グランデとしてのGlindaをやりたいわけじゃないの」と拒絶した話すき。

2. Emilia Pérez

Emilia Pérez - Wikipedia

国際映画枠からのノミネート、ほぼスペイン語。メキシコのギャングのボスが自ら死んだことにして性転換し、別人となって新しい人生を送る話。犯罪映画なのに謎にミュージカル。犯罪に関わるシリアスな場面でいきなり歌い出したり、性転換手術の病院で他の患者たちもみんな一緒にニッコニコで歌ったり、新しいもん観た感。

なんかよくわかんなくて観る前はあんまりテンション上がらなかったんですが、観始めたら思いっきり引き込まれました。とにかく主演のKarla Sofía Gascónの女優力がすごい。この方自身が男性から女性になったトランスジェンダーで、アカデミー賞では初のトランス女性の主演女優賞ノミネートとして話題になっていました。ただその後、かつてtwitterムスリムなどに差別的な発言を繰り返していたことが掘り返されて大炎上。すぐにアカウントを削除し、テレビで1時間にわたるインタビューに答えて涙ながらに謝罪しましたが鎮火できず、「この素晴らしい映画作品に参加したことに感謝しています。私はただ黙ることによって、この映画の成功を願っています」という言葉を残し、広報キャンペーンから姿を消しました。さて授賞式、どうなるでしょうか。

3. I'm Still Here

I'm Still Here (2024 film) - Wikipedia

国際映画枠のブラジル映画で、全編ポルトガル語。1970年代の軍事独裁政権下のブラジルで、不条理に政府に誘拐され戻らない元国会議員の夫に残された妻と子5人の家族の奮闘を描く。その子供のうちの一人が実際に作家になって書いた回想録を原作として映画化。

いやー重かったけど、勉強になった。こんなことがあったんですね。楽しいビーチと家の間にある一本の道が幸と不幸を隔てる別世界の境界線になっているあたり、昨年のThe Zone of Interestを彷彿とさせる気もしました。アカデミー賞候補になってなかったら観てなかった映画だと思うので、やっぱりアカデミー賞作品みてみるのって良いですね。毎年たくさんつくられる映画のうちから、たくさん映画みてきてる人がクオリティの高いおすすめを探してきてくれる。

4. Anora

Anora - Wikipedia

ニューヨーク近くにブライトン・ビーチというロシア系の人が集まっている地域があって、そこで働くセックスワーカーの女の子に起きた出来事。現代版のプリティウーマンといえばそうなのかも、全然違う気もするけど。

主演のMikey Madisonは、あのOnce upon a time in Hollywoodでブラットピットにボコボコに殴られた末にプールの中で叫びながらディカプリオに焼かれたあの女の子です。あの演技をみてこの子に当てた役を書いて映画をつくりたいと思った監督の思いからできた映画らしい。Mikey Madisonは謎の魅力がありますね。なんというかアン・ハサウェイのような、美人だけどなんとなく違和感のある顔が癖になるというか。インタビューとかいくつかみたんですけど、かわいいし育ちの良い感じの人ですね。今回の演技も良かった。しっかりしたビッチ感。捕まってギャーギャーわめくシーンがあるんですが、あの演技にリアリティがありすぎてまじ怖い。突き抜けててちょっと引いた。Once Uponのあのシーンの演技を彷彿とさせるものがありました。

5. The Substance

The Substance - Wikipedia

ハリウッドが本気出した「世にも奇妙な物語」、または笑ゥせぇるすまん。ヤベー映画きた。健康的な若さと美貌で売ってきたセレブが年齢による衰えを受け入れられずにいたところ、若さを取り戻せる使用方法厳守の謎の薬物 "The Substance" に出会う。なんか前半は笑っちゃう感じで楽しくみてたんですけど、展開としては読める通りに進んできて1時間半くらい経ち、あと50分もなにすんの?と若干ダレてきたところで、斜めからの展開きたw そっちw!? キモイww という暴走が始まって疾走したまま崖から飛び降りたみたいなスピード感でした。こういうのBody Horror っていうらしいですね。ザ・フライとか、カフカの変身とか、ああいう身体が変化するホラー。

復活のデミ・ムーアもよかったですが、若く美しい方のSuはMargaret Qualleyが演じていて、彼女はOnce upon a time in Hollywoodの腋毛ヒッピー少女です。Once upon ファンとしては、アカデミー賞授賞式でAnoraのMikeyと再会してOnce uponの思い出話などしているところを勝手に想像してほっこりします。Suは超絶スタイルの女の子なんですが、この女優さんこんな体型だったっけ?と思ったら作り物を着てたらしい。すごい技術。

6. Conclave

Conclave (film) - Wikipedia

日本の歴史の教科書ではコンクラーベってかいてたやつですけど、英語発音では普通にコンクレーブっていってましたね。ローマ法王が死去した後に次の法王を選ぶフィクション選挙劇。 おもしろかった。最後はそうきたかー!という感じ。いかにも最近のカリフォルニア人(ハリウッド)が好きそうなオチ。

7. A Complete Unknown

A Complete Unknown - Wikipedia

ボブ・ディランが田舎から出てきて上京、いや上ニューヨークしてからブレイクしてエレキを使いだしてブーイングされるあたりまでを描いた原作本の映画化。主演のTimothee ChalametはDuneでも主演で、ひっぱりだこですね。おフランスのかほりを漂わせるイケメン俳優という先入観があったんですが、ボブ・ディランへのリスペクトを感じる、すごく良い演技でした。この役作りに5年を費やし、ギターや歌を練習してきたらしいです。歌の場面では、ボブ・ディラン本人の歌声のような気がしてくるほど似せてきていました。後から比べて聴いたら全然違ったけど。

映画の予告でも使われていた、カリフォルニアのMontereyの音楽イベントに Joan Baezと歌いに来るシーンがあるんですが、私が住んでるサンフランシスコ近辺からもわりと近くていったことあるので親近感がありました。しかしカリフォルニアがでてきたのはちょっとだけでしたね。ちなみにボブ・ディラン本人は御年83歳にして現役、新しい曲もつくってますし、なにかに取り憑かれたように一年中コンサートツアーをやってる印象です。サンフランシスコ近辺でも昨年も今年もコンサートがあります。いったらこの映画にあるような超有名なクラシック曲が聞けるのかと思ったんですがそうではなく、最近の曲しか演奏しないようで、彼なりのこだわりと信念をもって独自のスタイルでやってるのは今も変わらないようです。

8. Nickel Boys

Nickel Boys - Wikipedia

フロリダに実在した更生施設 Dozier School を元にしたフィクション小説の映画化。舞台は1960年代で、キング牧師とかアポロ着陸とかの世の情勢が挟まれます。reform school っていってるんですけど少年院みたいなものなんですかね。特に黒人への虐待が常態化している施設に不条理に入れられて過ごす少年の話。つらい。実験映画っぽいような感じで、主人公とその友人の視点からの映像で話が進んでいくので、何がおきてるのか理解するまでにちょっとかかりました。

9. The Brutalist

The Brutalist - Wikipedia

ハンガリーユダヤ人が二次大戦の戦禍とホロコーストから逃れてアメリカに渡り、人生をやり直してアメリカンドリームを掴もうと奔走する物語。ドイツの伝説のオシャレ建築学校のバウハウスで建築を勉強したという設定で、オシャレ建築をやることによって運命を切り拓いていくので建築好きの人にはたまらないのかもしれません。Brutalist、Brutalismというのは、バウハウスあたりのああいう無骨ででかい感じの建築様式のこというようです。

今年の作品賞有力候補といわれる重厚長大な3時間半の大河ドラマ、さあ、こいっ!とガッツリ入り込むつもりで気合をいれて映画館に行きましたが、思ったより好きじゃなかったですね。というか英語が難しかったですね。説明的なセリフが多くてついていけず、ハンガリー訛りだし、何いってるかほとんどわからなくて集中力が切れました。

10. Dune: Part Two

Dune: Part Two - Wikipedia

これはノレませんでしたねー。あんまり興味ないんだよなー、と思いながら見始めたらあんまり興味もてないまま終わりました。そういえばこれにでてたAustin ButlerもOnce a time in HollywoodのOBですね。

昨年のアカデミー賞作品賞候補10作の感想はこちら。
2024アカデミー作品賞候補ぜんぶみた - It's Not About the IP

ミセスのコロンブス炎上から考える差別意識の現在

今年の夏の初めに、ミセス・グリーンアップルのコロンブスという曲のMVが炎上した騒動がありました。曲自体はまさに暑い夏にスカッと爽やかなコカ・コーラのようなテンポの良い曲で、このMV騒動がなければ今年の夏を代表する曲になっていたかもしれないのに、黒歴史みたいな感じになってしまって残念です。


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しかし私もアメリカの中でも差別に敏感といわれるカリフォルニアに住んでなんやかんや2年、日本では他人事だった差別感覚についてなんとなく肌感覚で考えることもあります。いまアメリカは11月の大統領選挙を控えて盛り上がっていて、ここでも焦点の一つは、いわゆる典型的なWASP、白人であるトランプと、黒人とアジア人(インド人)のミックスであるハリスの人種の違いです。そんなテレビでの討論をみていたら初夏のミセスの騒動を思い出したので、最近ちょっと考えたり考えなかったりしていることを少し記録しておこうと思います。

結論はないのですが要するに、「今回の騒動はしょうがないけど、そんなこといったら例えばアメリカで一番尊敬されているジョージ・ワシントンだって非道なやつだという認識が広まっていたりしていつ悪者になるかわからず、こういうのってけっこう相対的だよね」という話です。

コロンブスという人の評価の変遷

クリストファー・コロンブス(1451-1506)は1492年にアメリカを「発見」したといわれるイタリアの冒険家で、大航海時代カソリックのスポンサーを受けてインドを目指して大西洋を航海したらアメリカに到達し、アメリカ繁栄の礎を築いたとして西洋社会で勇敢な英雄として知られていた人。

コロンブスアメリカ(正確にはバハマ)に到着したといわれているのは1492年10月12日で、そこから300年後の1792年に、アメリカのイタリア人コミュニティを中心にその日をコロンブス・デーとして祝うことが増えたらしい。イタリアやスペインでも、この日は「新世界の発見」(Discovery of the New World)や「ヒスパニックの新世界到達」を祝う日とされた。1934年には、アメリカでこの日を連邦祝日にする法案が可決するも、ゴタゴタしているうちに第二次大戦が勃発。この戦争でイタリアはアメリカの敵国だったことから、イタリア人中心のお祭りであるコロンブス・デーは停滞。戦争終了後に再び機運が高まり、1971年についに正式な連邦休日として制定。

一方この間、世界の一体化が進んで見識が広く深くなるにつれて、コロンブスなどその時代にアメリカにやってきた西洋人は、先住民を殺しまくったりアフリカから奴隷をつれてきてこき使ったりした酷いやつらだという認識が広まった。西洋社会がやってくる前からアメリカには原住民が住んでいたわけで、それを「発見」とはなんて身勝手な、あれは繁栄の始まりではなく、侵略、虐殺の始まりであると。そういう認識が広まり、コロンブス・デーは現在でもアメリカではいちおう国民の祝日ではあるものの、実際に祝われることは減りました。自由の国アメリカではそれを休日とするかは組織や個人の自由なので、休みにしない会社は多い。1989年にはサウスダコタ州が初めてコロンブス・デーを「先住民の日」(Indigenous Peoples' Day)として先住民を思う日に塗りかえ、今ではそういう趣旨にしている州や都市がけっこうある。

日本での感覚

この騒動の際、ネットではそんなことも知らないのかという声も目立ったように思いますが、最初に炎上したときには正直なところ、えっ、そんなにダメなの?というのが一般的な感覚だったんじゃないでしょうか。アメリカと縁の深いヨーロッパやアフリカの教養人の間では、コロンブスはもはやヒトラーのような扱いだったりするようですが、直接あまり関係ないアジア諸国などではあんまり30年前と変わらないでしょう。コロンブスの卵の逸話は今でも聞くことがあると思いますし、ミセスの曲でも、いわゆるワンピース的な「勇敢なドキドキワクワクの冒険家」というイメージで語っているように思います。今回のMVも、日本のワイドショーなどでも当初は売れっ子バンドの新曲として肯定的に紹介していたようですしね。

私の友人でも、差別的だとは思わず、お猿さんと楽しく歌って踊っているという感じがBruno Marzのこれっぽいよねとか、


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RADWIMPのこれっぽいよねとか、


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そういう感じのネガディブではない感想を持った人が多かったように思います。

数年前に、ダウンタウンの浜ちゃんがエディ・マーフィに扮するために顔を黒塗りにしたブラックフェイスで登場したときも差別的だと話題になりましたが、あのときも正直まだ、えっ、そんなにダメなの?というのが日本では一般的な感覚だったんじゃないでしょうか。

わかるけど、そんなこといったら…

浜ちゃんのブラックフェイス騒動も今回のコロンブス騒動も、やってる側に差別的な意図がなかったのは明らかだと思いますが、結果的にあれが差別的という認識が広まったのは良いことだとは思います。思いますが、この辺の見方はわりと流動的というか相対的というか、どこまでが正当な排斥でどこからやり過ぎなのか、というのは難しい問題だとも思います。

アメリカではそういう歴史的な偉人や有名人が実は差別的なレイシストだとして炎上し、表舞台から干されることを「キャンセルする」とか「キャンセルカルチャー」といったりします。ちなみにこの「キャンセル」という現象はいわゆるリベラル・左翼的な人たちがSNSなどで騒ぎ立てるのが発端となることが多く、保守的・右翼的な人たちが嘲笑や皮肉を込めて「キャンセル」という場合が多いようで、こういったことをキャンセルという言葉で表現すること自体にやや保守的な意味を帯びるようです。

私が身近なところで起きてビックリしたのは、カリフォルニア・ベイエリアの名門ロースクールとして知られるUCバークレーロースクールの愛称だったボルト・ホール(Boalt Hall)が2020年にその名をやめたり、UCヘイスティングスが2023年にUCローサンフランシスコ(The UC College of the Law, San Francisco)と改名したりしたことです。ボルトもヘイスティングスも、カリフォルニアにおける法律関連の偉人の名前でしたが、外国人や原住民にひどいことをしたレイシストだったというわけです。

わかります。わかりますけど、そんなこといったら変えなきゃいけなくるなる名前は他にもたくさんあります。開拓時代のアメリカの西洋人にとって奴隷を使うとか他民族を排斥するとかは当たり前のことだったからです。

アメリカでおそらく最も尊敬されている偉人はジョージ・ワシントンだと思います。ワシントンはイギリス軍を撃退してアメリカ独立を先導するとともに初のアメリカ大統領となり、建国を先導した文武両道の立派な人として知られています。しかし彼は、何百人もの奴隷のオーナーで、彼らをこき使っていましたし原住民を迫害しまくりました。けっこうゾッとするのは、歯の悪かったワシントンが愛用していた入れ歯は、生きた奴隷から歯を引っこ抜いてつくったものだったといわれています。

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彼に由来する地名の「ワシントン」なんてたくさんあります。ワシントンDCもそうですし、ワシントン州もあるし、市区町村単位では数えきれないくらいあるでしょう。尊敬されてきた歴史と規模が大きすぎるのでそれらを改名するのは現実的に無理ですが、ワシントンを偉人として讃えることが非常識とされる未来はすぐそこにあるのかもしれません。

コロンビア大学とかコロンビア川とかありますけど、あの辺も由来はコロンブスなわけですしね。「アメリカ」の語源となった探検家のアメリゴ・ベスプッチもダメでしょう。奴隷商人ですから。徹底するなら国名を変えないといけません()。独立宣言を起草したといわれるトマス・ジェファーソンもダメです。この人も奴隷オーナーでしたし、奴隷の女性を犯しまくってできた子供が6人もいたといわれていて、最近の特に女性知識人の間での評判は最悪です。

ちなみにミュージカルも大ヒットしたアレクサンダー・ハミルトンが最近注目されているのは、 Founding Fathers と呼ばれるアメリカ建国の父たちはほとんどみんな金持ちWASPで奴隷オーナーでしたが、そのなかで彼だけが唯一、アメリカ大陸外で生まれて貧困層から這い上がった人物で、奴隷をもたなかったとして再評価されていることが理由にありそうです。「彼こそがアメリカの体現者だった」というわけです。


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というわけで、こんなような歴史認識というか人物認識は今後も流動的で、いつの間にか変わってた、ということが起こり得るかもしれないので、気を付けたいですね。

(参考)

news.yahoo.co.jp en.wikipedia.org en.wikipedia.org en.wikipedia.org

Eminem "Temporary" 和訳

本格的にコロナが明けていろいろ解禁したのか、今年はなんだかビッグネームのリリースが続く気がします。そんななか登場したエミネムのニューアルバム The Death of Slim Shady (Coup de Grâce)。これの15曲目の Temporary がエモすぎて Lose yourself 級の名曲なんじゃないかと思っていますが、ggってみたところまだあまり日本語訳をみかけないのでここに拙訳を置いておきます。


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エミネムには養子を含めて子供(娘)が3人いるのですが、血のつながった子供はヘイリーだけ。同じように愛していてもヘイリーにはやはり特別な思い入れがあるようで、自分が死んだ後のヘイリーに向けてメッセージを綴ります。愛する子供のいる親にはもちろん、ヘイリーの立場できけば、自分を愛してくれながら先立ってしまった大切な人を思う際にもぶっ刺さってくる内容です。

途中途中で、まだ小さいヘイリーと若きエミネムが一緒にふざけたりしながら話しているテープ録音が挟まれるんですが、これがまたエモさ倍増。表では悪態をつきまくって強がってきたエミネムですが、子供にはメロメロで優しいパパをやっていたところを見せてくる。そしてこの小さなヘイリーの声が、激かわいくてやばい。

テンポラリー

(イントロ)
多くのやつがきいてくる、「死は怖いか」ってな。俺の本当の答えは、俺が最も怖いのは、ここにいなくなったら君にいいたいことを何もいえなくなることだ。ヘイリー、つまりこの曲は、君に向けた、その時が来たときのための曲だ。

[テープ録音1]
エミネム)ヘイリーはどこ?どこいった?
(ヘイリー)ここにいるのはヘイリーじゃないよ
エミネム)じゃあ誰なの?
(ヘイリー)モンスターだよ!!
エミネム)きゃああー!
(ヘイリー)エへへへへ

(コーラス1)
ずっと続く夜の中、日が昇るのを待っている 暗い空をかき消してくれるのを
そして新しい日を連れてきてくれれば 少しは気が楽になるかもしれない

[テープ録音2]
(ヘイリー)あなたがパパ・モンスターで、あれが赤ちゃんモンスターで、私はママ・モンスターなんだよ
エミネム)そっか
エミネム)キスをして、モンスター。愛してるよ

(コーラス2)
もし眠ることができれば 夢に浸ることもできるかもしれないけど
でも今はただただ寂しくて だから思い出さないと
こころが壊れたとき、ずっと壊れたままでいるわけじゃない
かけらになったこころもきっとまた元に戻る
時がくれば、きっと私は大丈夫
涙はずっと続かない

(ラップ1)
そう、だからヘイリー・ジェイド。君に向けてこの歌を書くよ。俺がこの世を去った後に、君の助けになるようにね。何から話そうか。とにかく、アレイナ、スティービー、ネイトおじさんのことを頼む。可愛いわが子よ、強くあれ。俺のこと大好きだったもんな、わかるよ。今だってそうだろ。さよならをいうのは簡単じゃないけど、でもそんなに泣くんじゃない。泣くのを止めて、ほらヘイリー。その悲しさは、永遠に続くわけじゃないから

(コーラス3)
こころが壊れたとき、ずっと壊れたままでいるわけじゃない
かけらになったこころもきっとまた元に戻る
時がくれば、きっと私は大丈夫
涙はずっと続かない

[テープ録音3]
(ヘイリー)パパ
エミネム)なに?
(ヘイリー)あの、これ、わたしがちっちゃかったときにもってたやつよね
(キム)ベイビー、どうしたの

(ラップ2)
俺を乗り越えて、進んでいってくれ。俺の曲をきけば、いつだってまた一緒に遊べるだろ。泣くのは止めて、言ったじゃないか。ほら、背筋を伸ばして。かわいい小さな兵士。俺が抱っこしていたあの頃と同じだ、ヘイリー・ジェイド、大丈夫だ。俺ならいつだってここにいる。いつだって見守ってる。誓うよ。俺が君を守る。俺は君の守護天使になる。すごくつらいよな、俺たちがもうあえないなんて。ヘイリー、この雨は君を狂わせるだろうけど、それでも強いままでいてくれ。落ち着いて。この雨はそんなに長くは続かないから、前に進んでほしい。忘れないで、きっと良くなるよ。時間が癒してくれるから。

(コーラス4)
こころが壊れたとき、ずっと壊れたままでいるわけじゃない
かけらになったこころもきっとまた元に戻る
時がくれば、きっと私は大丈夫
涙はずっと続かない

落ち込んだ日々もきっと良くなっていく
そうしたらまた一緒に笑えるはず
今夜はまだ涙が止まらないけど
涙はずっと続くわけじゃない

[テープ録音4]
エミネム)こんなに大きくなった女の子、すごくかわいいんだ。その子の名前を知ってる?
(ヘイリー)ヘイリー!
エミネム)そう、ヘイリー。どうしてわかったの?

(ラップ3)
もし部屋に鍵をかけて何日も泣いているなら、小さかった時のことを思い出して。一緒にスタジオに行ったり来たりしたよな。車に乗って、君は後部座席でシートベルトをしてた。俺の小さな相棒だったよな。だから、わかるよ、かわいい娘よ、つらいよな。少しでも早く痛みが去ることを願ってる。忘れないで、ヘイリー。土砂降りのような日々だろうけど、君は必ずそれを乗り越えて、また何事もなかったように過ごせる日がくる。けっとばせ、ヘイリー。本当だよ。すごく深刻な気持ちになってしまうのもわかる。でもヘイリー、立ち上がって。心が壊れてしまうのもわかるけど、俺にとっても、これまでに書いてきたどんなことよりもつらいことだけど。ヘイリー、かわいい娘、大丈夫だ、俺を置いて先にいけ。約束だ。

(コーラス4)繰り返し

[テープ録音5]
エミネム)お気に入りの曲はなに?
(ヘイリー)いますきな曲?
エミネム)俺と君のお気に入りの曲
(ヘイリー)ここのところすきだよ。パパもここすき?

(ヘイリー)これテープにとってるの?この・・・ビッチ!
エミネム)えっ!?なんてこというんだ、今のも録れちゃったよ
(ヘイリー)・・・まだとってる?
エミネム)とってるよ
(ヘイリー)ビッチじゃない・・・
エミネム)え?
(ヘイリー)ビッチじゃない、っていったんだもん・・・
エミネム)オーケー。そんなこといったらダメだよ

Temporary

(intro)
A lot of people ask me, am I afraid of death?
The truth is, I think what scares me the most
Is not being able to say all the things I wanna say to you
When I'm no longer here
So this song is for Hailie for when that day comes

[Tape 1]
Where's Hailie? Where's she at?
This ain't Hailie
Who is it?
It's a monster
ahh

(Chorus 1)
I've been waiting all night for the sunrise
To take away the dark sky
All it takes is a new day sometimes
To get me in a better state of mind

[Tape 2]
You're the dad monster and them are the baby monsters and I'm the mom monster
Oh
Give me a kiss, monster, give me a kiss
Love you (I love you)

(Chorus 2)
If I could just fall asleep
I'd be lost in a dream
But right now, it's misery
And I just have to remember
That when a heart breaks, it ain't broken forever
The pieces will grow back together
And in time, I'll be fine
The tears are temporary

(Rap 1)
Yeah, so Hailie Jade, I wrote you this song
To help you cope with life now that I'm gone
How should I start? Just wanna say
Look after Alaina, Stevie, and Uncle Nate
And, sweetie, be strong, I know I was your rock
And I still am, saying goodbye is just not
Ever easy, why you crying? Just stop
Hailie, baby, dry your eye, this is not
Forever

(Chorus 3)
That when a heart breaks, it ain't broken forever
The pieces will grow back together
And in time, I'll be fine
The tears are temporary

[Tape 3]
Daddy
What?
When I used to have this when I was a little kid
Baby, are you okay?

(Rap 2)
Yeah, and you will get over me and move on
You can play me on repeat on a song
But don't you dare shed a tear, what'd I tell you?
"Straighten up, little soldier, "(*) them(*) times when I held you
Jade, it'll be okay, baby, I'm here, Hay
I'm watchin' you right now, baby girl, I vow
I will protect you, your guardian angel
As hard as this may feel, us(*) parting is painful
And, darling, the rain will drive you insane still
You will remain strong, Hailie, just hang on
It won't be too long, I need you to move on
And remember, it will get better
'Cause times heals and when a

(Chorus 4)
When a heart breaks, it ain't broken forever
The pieces will grow back together
And in time, I'll be fine
The tears are temporary
The bad days will start to get better
And we'll be laughin' together
And tonight, when I cry
The tears are temporary

[Tape 4]
I know this big girl
And she's really pretty
You know what her name is?
Hailie
Hailie, how did you know?

(Rap 3)
Yeah, and if there's days where you wanna lock yourself in your room and cry
Just think about how when you were little, how you and I
Back and forth to the studio, we used to drive
You strapped in the backseat 'cause you were my
Little sidekick, yeah, sweetie, I know this hurts
Bean(*), I'm wishing your pain away
Remember this, Hailie Jade
There's gonna be rainy days
I promise you'll get through 'em and make it regardless
Fuck it, Jade, I'll be honest
I knew that you was gonna take this the hardest
Sweetie, get up, I know that is is breaking your heart, it's
The hardest thing I ever wrote (daddy)
Hailie, sweetheart, it's okay for you to let me go
Baby, I promise you that when a

Repeat (Chorus 4)

[Tape 5]
What's your favorite song?
My favorite song right now
Mine and your favorite song, but
I like this part
That's your favorite part, dad?
You're taping me, bitch
I got you on tape cussin'
Can you hear?
Yeah
No, bitch
No what?
No, I said, I said, no, bitch
Okay, no cussin'

(*) 登場人物は以下。互いの関係性をイメージするために生まれ年を添えておきます。
エミネムMarshall Bruce Mathers III。1972年生。
(キム)Kimberly Anne Scott。1975年生。ヘイリーの母、エミネムの元妻。エミネムとは地元で13才からの長い付き合いで、くっついたり別れたりを繰り返した。
(ネイトおじさん)Nathan “Nate” Mathers。1986年生。エミネムの父親違いの弟。ヘイリーとは10才差で、一緒に住んでいた期間も長く、おじさんのような兄弟のような存在。
(アレイナ)Alaina Marie Scott。1993年生。キムの双子の姉妹であり、後にオーバードーズにより亡くなった Dawn Scott の娘をエミネムが養子として迎えた。
(ヘイリー・ジェイド)Hailie Jade Scott。1995年生。エミネムとキムの子。エミネムの血のつながった唯一の娘。
(スティービー)Stevie Laine Scott。2002年生。エミネムとキムは2回結婚しており、その2回の狭間にキムが付き合っていた別の男性との間にできた子供。エミネムが養子として迎えた。
(*) "Straighten up, little soldier," はヘイリーとアレイナに向けて2004年につくった曲 'Mockingbird' の中で使われた文句。この時はまだスティービーは養子になっていなかった。
(*) Beanはエミネムがヘイリーを呼ぶときのあだ名のひとつ。
(*) them は口語スラングで those のこと。
(*) us は口語スラングで our のこと。
(*) ヘイリーの呼びかけに、Hailie, Jade, Bean, Sweetie, Sweetheart, Babyなどの語が使われていますが、日本語訳としては特に同じ使い分けはしませんでした

というわけで

エモいですね。最後にヘイリーが申し訳なさそうに ’no bitch’ というのとかかわいすぎです。そしていやいやエミネムくん、率先してビッチとかファックとか公然といいまくってきたのお前やんけ、というツッコミ待ちではありますが、そのエミネムも我が子に対してはこういうちゃんとした教育をしてきたんですねというのは感慨深いものもあります。しっかりと教育を受けさせて大学にいかせたりとかいうことはかなり意識的にやっていたようですね。

同じアルバムからの先行シングル 'Houdini' では、後半部分で、「あれもこれも全てFuckだ、俺の子供たちも全員ファックだ、クソガキどもめ」みたいなことをいってますが、あれはこんなエモい曲を作ったことに自分でツッコんでいるようにも、照れ隠しのようにも思えてきます。


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参考文献

Eminemの3人の娘について

people.com www.usmagazine.com www.today.com

元妻キムについて

people.com

ネイトおじさんについて

people.com

テイラー・スウィフト「The Man」和訳。あるいはアメリカのフェミニズムと映画「バービー」について

まだまだツアーが続くテイラー・スウィフト旋風、鳴り止まないですね。昨年の夏ですが、私もサンフランシスコ・ベイエリアのリーバイ・スタジアムでいってきました Eras Tour。かっこよかった。

カリフォルニアの Swifties が目をキラキラさせながら楽しそうにしていて、こんなに大人気だとは知りませんでした。まさに社会現象。道路混みまくりの交通機関も乱れまくり、もともと数少ないサンフランシスコ・ベイエリアの電車も臨時列車が出る始末。↓これは私がこの時に撮りました。アメリカのコンサートは録画&公開オッケーなのが多いです。

この「The Man」、日本で聴いていたときはあんまりピンときてなかったんですが、アメリカで暮らして少し立体的にみえてきたような気がしています。というわけで、そんなこんなをふまえた私なりの和訳と解釈を。

The Man - Taylor Swift (ザ・マン/テイラー・スウィフト

I would be complex, I would be cool
They'd say I played the field before I found someone to commit to
And that would be ok for me to do
Every conquest I had made would make me more of a boss to you

奥が深いっていわれるはず かっこいいといわれるはず
多くの浮名が流れるのも これという人を決めるための過程と思われるはず
成し遂げてきたことは 頼りにされる理由になってるはず

この曲はきれいな起承転結になっていて、「起」の部分です。ここまで全ての文の動詞が仮定法で(赤字部分)、なんかわからんけど仮定の話をしてるな、そうならなかった希望の話をしてるな、と思いながらききはじめることになります。なんか不満げです。ちなみに英語コミュニケーションにおいて動詞の形が過去形なのか現在系なのか進行形なのか未来なのか仮定なのか、というのは日本人が思っている以上に重要な意味を持って内容を決定付けます。ちなみに conquest というのは口語では異性を口説き落とすといったような意味を持つので、そういう意味合いも連想させているように思います

I'd be a fearless leader, I'd be an alpha type
When everyone believes ya, what's that like?

勇敢なリーダーだと思われるはず とびきり優秀だと思われるはず
みんなにそんな風に信じられたら どんな感じなの

ここまで「承」です。「起」を受けた仮定の話が続いています。

I'm so sick of running as fast as I can
Wondering if I'd get there quicker if I was a man

全力で走るのにうんざりしてる
色々もっとすんなりいってるはず もし私が男だったらね

「転」きました。これまでぜんぶ仮定法だったことの伏線回収です。さっきまでのずっと仮定の話は、「もし私が男だったら」ああいう風になっていたはずなのに女だからそうなってない、というわけです。

And I'm so sick of them coming at me again
'Cause if I was a man , then I'd be the man
I'd be the man
I'd be the man

批判されるのにうんざりしてる
だって私が男だったら 私こそ「漢だ」って讃えられるのに
私こそ漢なのに
私こそ漢なのにね

「結」です。ここの a man と the man の使い分け(太字部分)がフィニッシュブローで、"the man" というのはアメリカでは特別な意味をもって、何かを成し遂げた人を讃える言葉です。 "you're the man!" というと、やったね!さすが!みたいな。この the man はその the man です。日本でも男ではなく「漢」という字を使ってそんな感じを表現したりしますね。そしてもちろんこれは、男性を表すmanという語がそういった社会的な信頼や成功を表すことへの皮肉でもあります。
余談ですが、ここの "I'm so sick of them coming at me again" というのは今のところの最新シングル Anti-Hero でも "All of the people I've ghosted stand there in the room"というくだりがあるのとなんとなく共通する気がして、テイラーは「売れたし人気者だからすごく沢山の人が寄ってくるのは有難いんだけど疲れるし申し訳ないけどうんざりするし相手しきれない」みたいな感情をちょいちょい出してきます。

They'd say I hustled, put in the work
They wouldn't shake their heads and question how much of this I deserve

活発な働き者だっていわれるはず
いちいち否定したりそんなに価値があるのかって疑問に思ったりしないはず

What I was wearing, if I was rude
Could all be separated from my good ideas and power moves?

私が何を着てたって もしちょっと失礼な態度をとったとしても
それは私の冴えた発想や能動的な行動とは関係ないでしょ

And they would toast to me, oh, let the players play
I'd be just like Leo in Saint-Tropez

私に祝杯をあげて 好きにやらせてるはず
サントロペで好き勝手やってるディカプリオのようにやれてるはず

I'm so sick of running as fast as I can
Wondering if I'd get there quicker if I was a man
And I'm so sick of them coming at me again
'Cause if I was a man, then I'd be the man
I'd be the man
I'd be the man

全力で走るのにうんざりしてる
色々もっとすんなりいってるはず
もし私が男だったなら
批判されるのにうんざりしてる
だって私が男だったら 私こそ「漢だ」って讃えられるはずなのに
私こそ漢なのに
私こそ漢なのにね

What's it like to brag about raking in dollars
And getting bitches and models
And it's all good if you're bad
And it's okay if you're mad
If I was out flashing my dollars
I'd be a bitch, not a baller
They paint me out to be bad
So it's okay that I'm mad

たっぷりお金を稼いで
ビッチとモデルと好き放題やるのってどんな感じなんでしょうね
男ならどんなに悪びれることなく振舞ったり怒ったりしても全て受け入れられる
もし私がお金をみせびらかしたら 成功者ではなくビッチだといわれるでしょう
こんなに悪くいわれてたら イヤになるのも当たり前でしょ

解釈

というわけで、A man と The Man の使い方がこの詞の最大の仕掛けなわけですが、この Eras Tour にアメリカ中が熱狂していた昨夏、同じように "The Man"という言葉が印象的に使われる映画がアメリカで大ヒットしていました。

バービーです。この映画はフェミニズムといわれたりするようで、私は不勉強ながらフェミニズムについて正確に理解していないので何もいえないのですが、この映画がただ楽しいハチャメチャ映画でありつつも、何らかの生き難さのようなものをひとつのテーマにしていることはわかります。

バービーはアメリカでは女性の自立を象徴している面があるようです。かつて、アメリカにおいて女性とは家の中で家事をする者で、綺麗な金髪女性とは何もできないバカな性搾取の対象と考えられていたようなのです。それを変えたのがバービーでした。医者のバービー、大統領のバービー、ジャーナリストのバービー、宇宙飛行士のバービー、弁護士のバービー。女性だって何にだってなれるんだと女の子たちを勇気付け、社会を変えていったのがバービーだったというわけです。私の同僚のアメリカ弁護士の女性たちも、この映画バービーが公開された時に楽しそうにこの映画の話をしていました。また、アメリカ女性弁護士がだいたい好きな映画といえばこれです。

Legally Blonde, 邦題キューティ・ブロンド。カリフォルニアに住んでいていて容姿ばかり気にしてバカだけど憎めないキャラのブロンド女性が、一念発起して勉強し、立派な弁護士になって男を見返す話です。日本ではB級コメディみたいな扱いだと思いますが、アメリカの女性弁護士はだいたいみんな観てるといわれています。

こういう、舐められがちな女性が知恵と勇気で何かを成し遂げるサクセス・ストーリー、テイラー・スウィフトはそんな女性たちの憧れのまなざしを受け止めるリアルバービーであり、アメリカにおけるプリキュアなのです。リーバイスタジアムでは、幼稚園くらいの小さな女の子もキラキラとした目でテイラー・スウィフトをみつめ、一緒に歌っているのが印象的でした。テイラーは子供の心もガッチリ掴んでいるようです。アメリカで街の本屋にいくと、幼児絵本のコーナーにテイラー・スウィフトものがたり絵本みたいなのが並んでいたのをみたときはビックリしました。みんなそんなに好きですかと。

先日、アメリカでグラミー賞の会場にいて賞をもらっていたと思ったら翌週に日本にいってコンサートを何本かやって、その週末にまたアメリカに戻ってきて彼氏がでるスーパーボウルにいって、そんなことしている間にまたアルバムつくったみたいですね。まじかと。Anti-Hero とかじっくり聞いてるともうちょっと休んだ方が良いんじゃないかと心配になってしまいますが、それもまた余計なお世話なのでしょう。

4月のニューアルバム、楽しみです。