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It's Not About the IP

- IP(Intellectual Property), Computer Technology, Ocean Life, Triathlon, and more

いまアメリカのソフトウェア特許に起きていること

7月1日は弁理士の日!このエントリは、ドクガクさんの「弁理士の日ブログ企画2016」に乗っかったものです。 今年のお題は「知財業界でホットなもの」

いまIT知財の世界でホットな話題といえばなんといっても35 U.S.Code§101(米国特許法101条、通称ワンオーワン(101))、2014年にUSでAlice判決というのがでて以来、ソフトウェア特許の世界は蜂の巣を突いたような騒ぎになってる。

少し前までアメリカはプロパテント(知財保護重視)で、ビジネスモデル特許という流行を生み出したのもアメリカだし、なんでもかんでも特許になる、なんて言われていたのも今は昔、いまや日本の審査の方が全然ユルユルで、少なくともソフトウェア特許においてはアメリカは完全にアンチパテント側に振れたといえる。

まあこのへんの話はソフトウェア特許に限った話なので、他分野の知財業界人や弁理士はあまり知らないかもしれないが、マジ大変なことになってる。

101の特許適格性patent eligibility をめぐる解釈で、抽象的アイデアabstract ideaは特許にならなくて、抽象的アイデアの場合、significantly moreな要素があるかどうかで判断する、ということが示された。ソフトウェアなんてのはそもそも実体のないabstract ideaだから、これは極端な話、ソフトウェア特許は基本的に全否定ですよ、と思われてもおかしくない。基本的に全否定で、例外的にsignificantly more なものは認めますよ、的な。

2014年にこの判決が出て2年経つが、USのソフトウェア特許は101を理由とする拒絶のオンパレード、この判断基準は過去のものにも遡及して適用されるために無効審判もオンパレード、既に特許になっていたものもバタバタと死んでいくという異常事態が起きている。この間、数百という特許が無効になり、101を争点とする訴訟も起きているが、訴訟で101の特許適格性が認められたのは、なんと2件しかない!

まさにソフトウェア特許 is dead。

この傾向が良いのか悪いのかは別として、法律実務家の正義として、クライアントの利益のために、如何にソフトウェアを特許にするか?なぜダメなのか?という議論がアメリカを中心に白熱しまくりマクリスティ。日本実務に慣れていると、2000年頃にビジネスモデル特許が流行って、その後に29(1)柱で拒絶されまくった感覚に近い。29(1)柱の発明適格性では、自然法則を利用したうんぬん、というところの解釈で、純粋な抽象的なソフトウェアはダメだけど、ハードウェアと協調して動作するものはOKということになった。これはなかなか合理的な指針だった。いま101打たれたときに、プロセッサがどうのこうのみたいな文言を足したら許されるという戦術は、日本の29(1)柱に対してとった戦術に似ている。

そしてsignificantly moreというのは要するに、新規性以上進歩性未満、日本でいう特別な技術的特徴stf みたいなもんなのではないかと考えた、ことが私にもありました。しかしそれもまたちょっと違う。なぜなら、101と102を打たれて応答したら、101は解消したけど102は解消しなかったということがあったからだ。日本でstfはあるけど新規性はない、という判断はありえない。新規性もstfも、先行文献を判断基準にするからだ。

つまるところ、significantly more というのは、引例や先行文献を判断基準にしない。引例や先行文献の記載に基づいてどうのこうの、という論理的なmoreではなく、抽象的な周知技術すべてを自らの知識とする仮想的でマジカルな存在である「当業者」の仮想的ななにかを判断基準とする、「なにか」でしかない。

引例のない、主観的な「なにか」。
そんなのは恣意性でしかない。

恣意性でしかないけど、恣意性でバンバン拒絶しましょう、としているのがアメリカ。
恣意性でしかないから、引例のないものは特許にしましょう、と割りきったのが日本。
恣意性でしかないから、全部拒絶しましょう、と割りきったのが欧州。

という考察はどうだろうか。

お題をもらったときは、最近モヤモヤと考えているこのへんの話を含めて、日本の新規性、進歩性(Inventive Step)、特別な技術的特徴(STF)、29(1)柱、USのpatent eligibility、新規性(novelty)、予期性(Anticipation)、significantly more、非自明性(Non Obviousness)、EPOのCII(Computer-implemented invention)におけるfurther technical effect、中国のインターネットプラス、インドのCRI(Computer Related Invention)におけるtechnical contribution、などの程度や相違について整理しながら考えてみたら面白いなと思ったんですが、ちょっと風呂敷畳みきれないので保留。時間と金と家族が許すなら大学院とかに通ってこのへんテーマにけんきうしたいですね。