財産的情報なるものの権利を示す「知的財産権」、「知的所有権」、「無体財産権」、「工業所有権」、「産業財産権」の語の使い分けについて語ってみる。
知的財産(権)
Intellectual Property (Rights)の訳語。いまのところ財産的情報の価値に関する権利を表す公用単語。必ずしも保護対象が「知的」であるとは限らないため、実体を表した言葉とは言えない。例えば商標法の保護対象は商標(ブランド名、マーク等)に化体した信用だから、こういうのは「知的」というのは違う。発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物、商標、商号、営業秘密などの財産的情報の上位概念であり、「客体が無体物であり実質的な占有が不可能で、客体の同時実施が可能」という特徴的な性質を持つ。
知的所有権
一昔前のIntellectual Propertyの訳語。これを勢いで「知的所有権」と訳したまでは良かったけど、Intellectual Propertyに関する基盤的な国際協定であるTRIPS協定の中ではIntellectual Property Rightという語とIntellectual Propertyという語が使い分けられていて、「知的所有権」は良くても「知的所有」って尻切れトンボだしなんかちがうなー、となった。あと、知的所有権といってしまうとどうしても所有権のスピンオフというイメージになってしまうが、そういう「所有権のドグマ」に捕われていてはウェブ上を飛び交う財産的情報の価値を正確に捉えることはできない、というのは池田信夫さん、もとい中山さんも言っているところ*1。ちなみに、首相官邸直属の知的財産戦略会議では、いまある「知的所有権」の語を可能な限り「知的財産権」に置き換えていくと宣言された。
無体財産権
一昔前の法律学ではこの語が好んで使われていた。言葉としては知的財産より正確なんじゃないかという気もするが、ちょっと上位概念すぎる気もするし言葉としてなんだか垢抜けない。法学会では「無体財産」派と「知的財産」派が対立して後者が勝利したという政治的なアレがあったとかなかったとか。この語もほぼ死んだものと思って良いと思う。
工業所有権
伝統的なIndustrial Propertyの訳語。どっちも略すとI.P.だしパッと見の外観も似ているが、Intellectualではないので注意。特許権、実用新案権、意匠権、商標権。要するに経済産業省特許庁が所管する法域のことと捉えて良いと思う。著作権(文部科学省文化庁)、商号権(法務省)とかは含まれない。「産業財産権」への置き換えが企てられているが、「工業所有権」はまだまだ実務界では一般用語。「産業財産権」はなんかへロッとした語感なので広まらないような気がする。
産業財産権
Industrial Propertyの訳語。昔の人がIndustrialを工業と訳して工業所有権となったのだけど、いわゆる工業ではないサービス業なんかの分野のものも保護対象に含むことから、「工業」より広義の「産業」と訳す方が正確なんじゃないの、ということになり、いまでは国もこの語の使用を奨励している。ちなみに最近改訂版がでた特許実務家のバイブル、特許庁編の『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説』(通称「青本」)のタイトルには、かっこつきではあるが「産業財産権」の語が組み込まれた。
- 作者: 特許庁
- 出版社/メーカー: 発明協会
- 発売日: 2008/06
- メディア: 単行本
- クリック: 52回
- この商品を含むブログ (9件) を見る