なんとなく思い出したように、今年の芥川賞のでも読んでみっかなーと思って川上未映子『乳と卵』を読んだのだけれど、正直、なんかキレイな人やんけーと思って惹かれた部分もあるのだけど、思わぬ衝撃を食らった。前評判では、新しい文章スタイルだとか、現代の樋口一葉だとか、選考会ではみんな推す中で石原慎太郎だけが酷評したとか、そういうことをちらちらと目にしていたのだけれど、いやそういうことじゃなくてこの小説のスゴさは、文体がブログだってことなんだと思うんだ。
- 作者: 川上未映子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/02/22
- メディア: 単行本
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ブログというカルチャーの中には、情報発信としてのブログから、純粋な日記としてのブログ、有名人がコボレ話をするブログ、などがあるけれど、そういう新聞や雑誌でみたことあるような空気感をそのままウェブに乗っけた、みたいなブログとは全く違う空気感を持って、かつ、それ自体で全く新しい文芸として成立していると思えるようなブログにたまに出会うことがある。そしてそういうのを読んでいると、これは文芸だなあ。オモロイなあ。この文章は芸術といっていいと思うなあ。と思うことがあって、そういう文芸としてのブログがいわゆる旧来型メディアを席捲したらオモロイことになるなあ。まあそのうちそういうことになるだろうけど、まだけっこうかかるだろうなあ。と思っていたら、いやいやいやいやいや、もう、選ばれてた。芥川賞。サスガですよ芥川賞選考委員。
この川上未映子という人はもともと(本業?)シンガーで、自分と自分の歌の宣伝をするためにブログを始めたらしい。それでブログの文章がオモロイと評判になって、そして文学雑誌から誘いがかかって小説を書き始めて、ほいたら芥川賞に選ばれちった、という流れのようであります。だから実際にこの人の小説は、ブログ的な空気感がすごくする。それで芥川賞受賞後には、たけくまさんとしょこたんと3人でブログ談義をしていたりする。モノホンだ。
ところで川上未映子のブログにいくと「よりぬき日記 最初にどうぞ」として貼ってある「私はゴッホにゆうたりたい」というエントリがあって、これはなかなかナイスでホットなエントリなのだけど、これを文芸やさんたちが詩として評価しているらしいのをみて違和感を感じたりしたけど、いやあまあ確かに詩といえば詩なのかも知れないけど、これはブログだよ。ブログエントリだよ。このグッとくる感は、たまにであうクールでホットなエントリだよ。
川上未映子『乳と卵』の小説は、そういうホットなエントリの空気感が芸術に昇華された小説だ。
芥川賞の選考委員は、池澤夏樹、石原慎太郎、小川洋子、川上弘美、黒井千次、高樹のぶ子、宮本輝、村上龍、山田詠美、の9人。政治家が混じってるけど*1、ストイックに小説に命かけちゃってる人たちという感じで、よく知らないけど多分こういうエライ小説家は掲示板とかに中傷されまくったトラウマとかでインターネットなんかキライじゃ、となっているか、さもなくともネットってオモロそうだなーと思いながらやっぱりおそるおそるという感じでブログやってたりするかのイメージなんだけど、だからこの川上未映子のブログ文芸はなんか、不意に認められてしまった、という感じなんじゃないだろうか。でも文章表現としての新しさ、面白さを真摯に追求しているリアル文芸ホリックたちは、意識してかしなくてか知らないけど、ブログ文芸を選んでしまったんだ。いいハナシだなあ。だから、この小説が芥川賞に選ばれてスゴイのは、新しい文章スタイルだとか、現代の樋口一葉だとかそういうことじゃなくて、ブログという文芸が芸術に昇華したってことなんだと、思ったりしたんだ。