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特許明細書における「〜」vs「−」vs「から」vs「乃至」

特許明細書職人たるもの、特許明細書の記載、特に特許請求の範囲の記載については、一言一句について、その意味、そう書いた理由を説明できなければならない。単語はもちろんのこと、助詞や句読点にいたるまで、なぜその語を選んだのか、なぜそこに読点を打ったのか、というのは推敲されていなければならないし、はっきりいえば、そういった詳細な検討をできない特許明細書ライターに、的確な権利範囲を表現できるわけがない。

というわけで、最近フト、「請求項1〜3に記載の」といったような記載をみて、形式的なものだし、まあ絶対イヤじゃないけど、私はこうは書かないなと思う。結論からいうと、私は「請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の」と書く。というわけで、私はなぜこう書くのか、一言一句、理由を説明してみたい。

なお、あくまでもこれは私なりの現在のところの結論であり、今後、考えが変わる可能性はあるし、違う考えに基づく記載を否定するものでもない。

それでは私見を述べます

「請求項1〜3に記載の」という記載においてまず引っかかるのは、「〜」だ。ここにいれる語として他の可能性を考えてみると、「−」、「から」、「乃至」などに置き換えることができるだろう。これらのどの記載でも特許になっているものはあるし、不明確や誤りと言い切れるものもないが、だからといってどれでも同じというわけでもないように思う。

「〜」

まあ絶対イヤじゃないですけど、なんなんですかねこの「〜」。単純に。どういう意味なんですかこれ。いやわかりますよ、感覚としては。「から」でしょ。「1〜3」というのは、「1から3」という意味でしょ。わかりますよ、日本語ネイティブの一般的な感覚としては。ちなみに米国ネイティブチェッカーが眉間にしわ寄せて「それはjapanese characterだ」といっていたのを聞いたことはありますけど。まあもちろんjapanese characterであることをもってダメとは思わないですけど、でもですね、この「〜」はどういう意味なのか、厳密な意味でよくわからないので、プロの法律文書クリエイターとしてはちょっと使うのためらいますね。だって、チルダでしょこれ。全角のチルダ。チルダってさ、例えばwikipedia(2014/9/1時点)には、「数学においては「ほぼ等しい (similar to)」を表す記号として、UNIXオペレーティングシステム上ではホームディレクトリを示す記号などとして用いられる。」って書いてありますけど、そのどちらでもないでしょ、ここで使ってる「〜」は。本来の記号としての意味とか定義とかとは離れたところでの、なんとなく絵的な感覚としての、起点からにょろにょろっとのびて終点まで、みたいな、すごくなんとなくの、まあわかるよね的な、感じなんでしょ、この「〜」を「から」と解釈するのは。不明確っていわれることも、あり得ないとは言い切れない感じしませんか。ていうか、「1〜3」というのは、「1から3」という意味なんだったら、そうなんだったら、だったら、最初から「1から3」とかいておけば良くね?

ちなみに、某SNSで、「〜」ってなんなんだ的なことをブツブツいっていたら、以下のslideshareをおしえてもらいました。おもろしかった。

(全角チルダ問題) http://www.slideshare.net/mobile/tsudaa/ss-36658329

「−」

まあこれも絶対イヤじゃないです。これも感覚としてわかりますよ、「1−3」というのは、「1から3」という意味でしょ。英語では「1-3」とかけば「1から3」という意味になるのは明確なんでしょうし、各国政府はじめ関係各所が制度調和とか統一特許とかを謳い、明細書自体の項目等のフォーマットも統一して、クライアントからも「各国移行のときにできるだけ逐語訳でいけるような記載を心掛けてちょんまげ」という要望もチラチラでてくるなかで、「1−3」と書きたくなる気持ちはわかります。でもやっぱり、「−」は「から」の意味だっていう解釈は広く一般的であり疑問の余地がないと言い切るのはちょっとためらいませんか。例えば、「1−3」というのは、1マイナス3みたいな強引な誤読も、ありえなくはない気がしませんか。不明確っていわれることも、あり得ないとは言い切れない感じしませんか。だからやっぱり、現時点では、「1から3」という意味なんだったら、だったら最初から「1から3」とかいておけば良くね?

ちなみに余談ですが、最近の特許庁内部では、拒絶理由通知を書くときには「−」を使うことが奨励されているらしいという噂。

「から」

というわけで、結局、「から」って言いたいんだったら、素直に「から」ってかくのがベターなんじゃないでしょうか。「から」というのは「から」としか読めませんから、「から」以外に誤読しようがありません。

「乃至」

これは、私はイヤです。乃至反対協会会員です。まあわかりますよ、「1乃至3」というのは、「1から3」という意味でしょ。でもさ、だったらやっぱり、「1から3」という意味なんだったらさ、最初から「1から3」て書いておけば良くね?ちなみに辞書引くと、「乃至」というのは「また」という意味もあるので、「1乃至3」は「1または3」という解釈も可能なんですよ。いや、請求項に「乃至」と書いたときは伝統的に「または」ではなく「から」という意味なんだ、という反論は可能なんだと思いますよ。一昔前まで、民法の条文において「乃至」は「から」という意味で使われていたわけですからね。でもですね、民法の条文改正でそれをなんで全部「から」に置き換えたかって、その理由のひとつは、「乃至」を「また」と解釈する可能性を排除するためだと思いますよ。なんかそういう状況で「乃至」って使い続けてるのは、私は反対ですし、不勉強っていってもいいんじゃないかと思います。

もうだいたいこのエントリで言いたいことは言っちゃいました。あとは余談です。

「請求項1から3」とかくのと、「請求項1から請求項3」とかくのは、まあ意味的には同じかとも思いますが、「請求項1から3」というのは「請求項1から請求項3」の略なんじゃないかと思います。意味が全く同じなら文字数が少ない方がより良いし、あってもなくても意味が変わらない語はない方が良いと思いますが、多少冗長になったとしても略語というのはあまり使わない方が良いと思っています。正確さと冗長さとどっちをとるかっていったら前者ですね。

というわけで、「請求項1から3」よりも「請求項1から請求項3」のほうがベター。

従属項として選択的なものであることを明確にするために「までのいずれか1項」を足して、完成。

ところで余談ですが、「請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の」という記載で不明確の拒絶理由通知を食らっているのをみたことがあります。拒絶理由通知いわく、「または」と「いずれか」という選択的な記載が重複しているので不明確であると。正しくは「請求項1または請求項2に記載の」とか、「請求項1と請求項2とのいずれか1項」とかにすべきである、とのことなんでしょう。まあいってることはわかりますけど、本当にこれ、不明確ですかね。言いたいことはわかりますけど、ちょっと腑に落ちませんね。

こちらからは以上です。