It's Not About the IP

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Javasparrow騒動で学ぶ商標登録制度

info-blog.javasparrow.tokyo

Javasparrow社の商標にオラクルが待ったをかけているのが話題になっていて、例によってブクマカ(死語)界隈では「知財権ふりかざすやつはevil」みたいなことがいわれているようです。が、単に商標登録制度というものが知られてないことによる誤解みたいなのも散見されるので少し補足を。

主にいいたいことは Perl商標登録騒動のときに書いた内容とかぶる ので、今回はブックマークコメントに勝手にマジレスするスタイルでいきます。

id:sangpingラクル側にとっては「はした金」で、Javasparrow側にとってはそれなりの額になる値段が見いだせれば、プライドにこだわらず普通に売り渡して、双方幸せになるシナリオも微レ存。/文鳥の英名って商標とれるんだな。

後半部分の「文鳥の英名って商標とれるんだな。」というのは、普通名称なのに個人(私企業)が独占的な権利をとれるんだな、ということだと思いますが、とれます。例えば「アップル」はリンゴの普通名称だけどコンピュータ界隈ではアップル社の商標です。商標登録制度では、商標と指定商品との関係を加味して登録可否を判断します。ジャンルが違えばOKということです。ペットショップが文鳥を売ることについて"Javasparrow"の商標をとろうと思ったらさすがにダメだと思いますが、スマホアプリについて"Javasparrow"の商標はOKです。果物屋さんがリンゴを売ることについて"アップル"の商標をとろうと思ったらダメだと思いますが、コンピュータ商品について"アップル"の商標はOKなのと同じ理屈です。

id:nicht-sein .amazonは結局amazon川流域の国家に対しても開放することを条件に米amazon社が勝ち取ってた記憶。なんにせよ、OracleはEvilだなぁ……

これはドメインの話かと。商標の話とドメインの話ってごっちゃになりがちですが、考え方はいろいろと別です。amazon社がアマゾン川流域の旅行ツアーの販売について商標権ふりかざしだしたらNGだと思いますが、インターネットサービスにamazonは商標的には問題になりにくいですね。

id:rna JAVATEAは1989年発売でJavaより先に世に出てるから商標権大丈夫では。
id:tarbo ジャワティー(JAVATEA)とかにも権利放棄依頼したんだろうか…
id:ryun_ryun 他社だけど、JAVATEAは既に訴えられているのかどうかがきになる。

これも同じですね、お茶とスマホスマホアプリはジャンルが違うので関係ないです。あと商標は特許などと違って登録要件に新規性は求められないので、商品「お茶」についてのJAVA TEAの商標が先に世に出て既に知られていることは、商品「スマホアプリ」についての「Java」や「Javasparrow」の商標登録の有効性とも基本的には関係ないです。
ちなみに特許庁の公開DB j-platpat でざっと検索すると以下の登録商標がでてきます。

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ラクルの(Sunの)前にいくつかの「ジャバ」周りの商標が登録されてますね。ジャンルが違うのでOKです。泉株式会社の「ジャバ」という商標は1974年に登録されて今も生きているし、大塚製薬によるお茶についての「JAVA TEA」の商標権も生きています。

id:monopole ふーんと思ったがこの会社IT系なのか。さすがにJavaを意識せずこの名前をつけたとは思えないが…

どうなんでしょうねー。「Java Sparrow」とかでなくあえて「Javasparrow」という名前にしているあたり、どちらかというとどうしてもこの名前をつけたかったけどオラクル社の「Java」商標をリスペクトして誤認しない方にあえて寄せているようにも思えます。

id:rryu 指定商品・役務からするとJavaが動くスマホでも作る気なのだろうか。今更感しかないが…

基本的にはスマホアプリのことをいってるんであってスマホ自体をつくるって話ではないと思います。スマホアプリをプレインストールすることもありえなくはないので指定商品にスマホもいれておくのはわりと普通かと。

id:comitlog よく知らないんだけどJavaScriptは大丈夫なの?
id:im_asukaラクルさんはJavasparrowに文句つけるより先にJavaScriptをどうにかするべきだったんじゃないの
id:wazpk6no こんなとこに難癖つける前にjavaScriptを何とかしろ!

JAVASCRIPT」の登録商標もSunからオラクルに受け継がれてるので、問題にならないでしょうね。

id:mutinomuti まずオラクルはジャワ島に使用権料を支払うべきでは?(´・_・`)スラップみたいな嫌な感じ
id:tanakh “「Javasparrowとオラクルとの間で業務上関連があるような誤解を招く恐れがある」” Javaはジャワ島に関係があるかのような誤解を招く恐れがあるからオラクルは権利放棄するべきじゃん?(´・_・`)
id:Helfard これではジャワ島の企業は壊滅では?

ジャワ島が商標権をもっているわけではないしスマホアプリの名産地なわけでもないので関係ないですね。iphoneのアップル社が農協リンゴ組合に使用権料払う必要ないくらい関係ないです。ちなみに関係ないですが日本でも缶コーヒーのジョージアとか地名だけど特定メーカーの商標として機能しているものもありますね。ボジョレーとかワインの名産地を商標として如何に扱うかみたいな話とかはいろいろ複雑な国際事情があったりしますがそれもまた別の話。

id:showii ジャワカレーと揉めたりしてないのかな。
id:Dai44 ハウスジャワカレーも訴えられるのか

これも商標的にはスマホアプリとカレーはジャンルが違うので以下略

id:stealthinu これは無理筋だろ。しかも特許庁への異議申し立ても通らなかったのに無効裁判請求してるとのこと。
id:Kil これ「JavaSparrow」にしてなくて良かったよね。英名そのものは「Javasparrow」という1単語ではなく「Java sparrow」という"ジャワのスズメ"、みたいだし。https://en.wikipedia.org/wiki/Java_sparrow

そうですね。良いか悪いかは別として、商標理論的にはそんなにどうしようもなく不条理に無理筋、ってわけでもないです。ちなみに異議申立でダメだったから無効審判やるってのも既定路線なので珍しい話ではないです。

商標の似てる似てないというのは結局のところ程度問題なんですね。オラクルの先行登録商標JAVA」との関係性では例えば以下のように考えると上から下に向かって拒絶される可能性が高くなると思います。  

文鳥
ジャバスパロウ
Javasparrow
JavaSparrrow
Java sparrow
JAVA sparrow

一番下だったら即アウトなんじゃないですかね、しらんけど。

一橋大学キャンパスツアー的な

前2回にわたってお送りしました「インターネット時代の知財を再定義する試みβ」のスピンオフとして、これを調べたり考えたりするのに一橋大学の図書館に籠ったときに撮った写真をいくつか挙げておきます。

インターネット時代の知財を再定義する試みβ(2) - It's Not About the IP
インターネット時代の知財を再定義する試みβ(1) - It's Not About the IP

全体像はこんな感じ。
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JR中央線国立駅から一直線に南に延びる大学通りの西側と東側にキャンパスがあります。国分寺と立川の間だから一文字ずつとって国立、というのがもともとの地名の由来のようで、箱根土地が文教地区としていろいろ頑張って誘致したみたいですね。いまではすっかり国立市(クニタチシ)として成立して「国立市立国立小学校」とか「国立ほげほげ歯科医院」とかあって文字面だけみるとコクリツの施設なの?と一瞬思ってしまうトリックにあふれています。この街で「国立」という文字をみたときはクニタチなのかコクリツなのか文脈から一瞬考えないといけないという面倒な感じなんですけどだいたいクニタチで合ってる。

一橋大学の図書館。
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一橋のキャンパスには伊藤忠太さんという築地本願寺なんかも設計した建築家が設計したものがけっこうあって、この方が妖怪のような何かをモチーフにするのが好きという癖があったようで、変わった妖怪のようなものがところどころにあります。この手前にもよくわからないレリーフがありますね。

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夜は時計台の文字盤が光ります。

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シンボル・兼松講堂と佐野善作先生。佐野善作先生はもともと皇居脇にあった一橋大学の前身である東京高等商業学校が大学に昇格した時の学長で、関東大震災で皇居脇のキャンパスが崩壊して国立の地にキャンパスを移したりとか色々とご尽力された方。

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キャンパス内は地域に開放されていて、朝なんかは近所の方が集まってラジオ体操やってたりします。キャンパス内の林にはカブトムシとかもいて、夏の早朝には近所の子供たちがカブトムシ採集で盛り上がっていたりする。

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兼松講堂の隣にあるのは矢野二郎先生の立像。佐野善作先生よりも前の商法講習所の時代から校長を務めていたりした方。

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佐野先生の左側にあるのが西キャンパス本館。「おおかみこどもの雨と雪」の前半は国立が舞台になっていて、花とおおかみおとこが出会うのはこの本館の教室です。

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本館の入り口部分。

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本館入り口のエントランス部分にあるレリーフ。ちょっと怖い顔してますが、よくみると左右で阿吽になっていて愛嬌があります。

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キャンパス内には指定文化財になっている建造物があるんですけど、この旧守衛所もそれ。

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西キャンパス奥にある陸上トラックから図書館を望む。

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西キャンパスから南側の道を一本隔てたところにある佐野書院は、佐野善作先生の住居跡。いまでは一橋大学の所有地です。

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東キャンパスの入り口。西キャンパス←→東キャンパスをつなぐ横断歩道は、一橋大学の授業時間に合わせて学生が移動するために赤と青の時間が調整されているとかいないとか。

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東キャンパス本館。この前にある池にふざけて入ると退学になるという噂。

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東キャンパスからちょっと離れたところにある寮。一橋大学の校章であるマーキュリーマークがあります。

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の近くにある多摩蘭坂の標柱。よくわかんないんですが、忌野清志郎さん率いるRCサクセションの名曲「多摩蘭坂」の聖地らしいです。忌野清志郎 さんがこの坂の途中のアパートに住んでいたことがあったらしい。


RCサクセション 多摩蘭坂 at 武道館 1981 (曲前が首都圏版より数秒長い地方版)

落ち着いた、品のある良い街ですね、国立。

--
オマケ :皇居脇の一ツ橋にある如水会館渋沢栄一
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インターネット時代の知財を再定義する試みβ(2)

(承前)
ysmatsud.hatenablog.com

そんなわけで論文掘りをしているんですけど、いやあすごいですわ。まあまあ知財のこと知ってるつもりになっていましたけど、アカデミアの門の向こうに知らない世界が広がっていました。実務や弁理士試験には出てこない知財哲学の荒野。

早速その荒野で迷子になりかけているので、ちょっと道標としてのインデックスを。

知財権の根拠

知財っていったいなんで、なんのためにあるの、という理屈の再構築が議論されている。

公開の代償として独占権を与える、とかよくあるあれ。創作物が生む経済的利益の独占を創作者に認めることで創作のインセンティブを与える。帰結主義的か。

発明や表現は人格の発露だから、人格として保護すべきとする考え方。この発想は特許法の条文上にはないが、わりと真面目に議論されている。ソフトウェア産業における特許制度は害であることが実証経済学として証明されてしまったので、特許の存在意義はインセンティブ論では説明がつかない。そこでこれがもてはやされてるんだと思う。条文から読めないけどな!

破綻する特許―裁判官、官僚、弁護士がどのようにイノベータを危機に

破綻する特許―裁判官、官僚、弁護士がどのようにイノベータを危機に

  • 作者: ジェームズ・ベッセン,マイケル・J.モイラー,浜田聖司
  • 出版社/メーカー: 現代人文社
  • 発売日: 2014/08/20
  • メディア: 単行本
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〈反〉知的独占 ―特許と著作権の経済学

〈反〉知的独占 ―特許と著作権の経済学

白田秀彰先生の「コピーライトの史的展開」には、英米においてもともとインセンティブ論だったところに自然権論が混じっていった過程が研究されている、、、のかな?

森村進先生は、財産権とはそもそも、財が希少であるからこそ支配権に関する争いを解決するためのルールなんであって、使ってもなくならないアイデアや表現など無限に複製できるものについて財産権というルールを設定するのは自然とはいえない、と主張されている。リバタリアン的な見地からIPを懐疑的に捉えているようだ。自然じゃないから。ふむふむ。

[論文] 森村進 / 知的財産権に関するリバタリアンの議論

財産権の理論 (法哲学叢書)

財産権の理論 (法哲学叢書)

  • 契約論

知財権の根拠を、所有権法でも不法行為法でもなく契約法に基づくものとして捉えなおそうとしているのが最近の島並良先生。まじすか。めちゃ尖ってる。教科書とか書いている大御所の先生が裏ではそんなぶっとんだこといってるなんて素敵。
曰く、特許制度は、市民の意思の総体として(選ばれた議員が)つくった特許法に基づいて運営されており、このスキームは市民自身の意思がベースだから、特許権は特許出願人と公衆との間の社会契約である。特許侵害とは、この社会契約の違反である。みたいな話。

kaken.nii.ac.jp

技術分野によって違うよねという話

  • 医薬品とか化学もの

薬なんかは開発のためにものっそい何億とか何百億とかのお金がかかるから、それを回収するために特許を与える必要があるし、内容を開示して重複研究を避けることは全体最適としても機能する。また化学式で発明を定義、特定できるから、侵害/非侵害も比較的わかりやすく権利行使場面でも概ね期待通りに機能する。

  • 機械とか構造もの

機械も構造ものなんかは図面でバシッと表すことができるし権利範囲が比較的明確なので権利行使場面でも機能する。

  • ソフトウェア

ビジネスモデルものの発明はポッと出のアイデアも多いから開発費用の回収という意義は希薄。サービスサイクルもはやく特許公開とかの前にバンバン公開されていくから特許公報として公開する意義も希薄。そして権利はあいまいな言葉で表されたクレームに基づいて解釈されるので、侵害/非侵害の明確な判断が困難、というか不可能。
→役に立ってないじゃん

じゃあもう特許制度なんかやめちゃえば良いじゃんという議論

じゃあもう少なくともソフトウェアの分野では特許やめちゃえば良いんじゃないの?と素直に思うわけですけど、そうできない理由は2つ。
・TRIPS協定27条。技術分野を任意に絞らないことが求められている。
・経路依存性。経済学や社会科学の用語で、制度として確立して組織ができてしまうとその組織自体が制度を維持することを目的として維持されてしまうということが起きる。ソフトウェア特許の世界でも、そのための特許庁、特許事務所、企業知財部員などの組織が既に出来上がってしまっているので簡単にはなくせない。…これはあるよなと思っていたんだけど、田村善之先生がこのことを既に経路依存性という社会科学用語で説明していた。すごい。

プロ・イノヴェイションのための特許制度の muddling through (5・完) : HUSCAP

こうなると、EPやUSは、特許の土俵には乗せるけどなかなか権利化させないというわけでうまくやってるよなと思う。

ちなみに分野に限らず、昔は技術を特許を特許公報として国の手間でみんなのみえるところに置いて公開するという意義があったけど、今日では個人でもインターネットで簡単に世界中に公開できるから、そういう意味でも特許制度の意義は薄くなってる、という話はあると思う。これも社会科学のアカデミックの文脈でどなたかが既に説明しているだろうか。

じゃあどうするのという議論

・ USでは、トロールによる特許侵害訴訟なんかでは損害賠償は認めても差止を認めないという判例が確立しつつある。日本でもこのようにすることは可能なはず。

・これはどこまで関係あるかわからないメタな話だけど、改めて読んで置きたいなと思ってる。インターネット後に目指す社会システムはフラットではなくステップでもなく、「なめらか」であるという提案。

なめらかな社会とその敵

なめらかな社会とその敵

・これもメタな話だけど改めて読んで置きたいなと思ってる。気鋭の若手シャレオツ弁護士による、より良いインターネット後の社会を目指すための提案。

法のデザイン?創造性とイノベーションは法によって加速する

法のデザイン?創造性とイノベーションは法によって加速する

・ 田村先生は、特許を財産権というよりも行為規制として捉え直すことを提案している。これもまた尖ってますけど、すごくリーズナブルなように思う。胸熱。この論文の破壊力がやばい。興奮した。

プロ・イノヴェイションのための特許制度の muddling through (5・完) : HUSCAP

曰く、特許権は財産権のようなかたちをとっているがその実態は行為規制なんだし、行為規制である独占禁止法と場面場面で使い分けて、特許庁、裁判所、公正取引委員会の役割分担の問題として捉え直すのはどうだろうか、みたいな感じ。

すごい。感動した。大学の先生たちって、教科書かいたり判例解説したりしてるだけじゃなかったんや!!

インターネット時代の知財を再定義する試みβ(1)

ソフトウェアエンジニアをやっていた15年前、プロプライタリなソフトウェアを尻目に先端いきまくってるOSSがカッコよく見えて、インターネット/ソフトウェアに関する知財制度は考え直されるべきだ、と思ったのがもともと知財に興味をもったきっかけでした。

なんやかんやで大学院に通い始めたんですけど研究計画のためにつくったスライド晒す。

というわけで先行研究としての論文を探して読み始めているんですけど、なるほどー。インターネット時代に特許制度が馴染んでないと考えている人はアカデミックの世界にも確かにいるんですね。知らなかった。あの先生とかあの先生とかお名前は聞いたことありましたけど、けっこう尖ったこといってるんですね。面白いっス。

けっこう色んなところで色んな方が色んなこといってるので、色々インプットする前に、私の今の粗っぽいそもそもの思いみたいなものを忘れないうちにメモしておきます。

まだ知識も実務経験も積む前の12年前にほとばしるように書いたエントリも参考まで。

なぜいま知的財産がオモロイのか?(3) - It's Not About the IP
なぜいま知的財産がオモロイのか?(2) - It's Not About the IP
なぜいま知的財産がオモロイのか?(1) - It's Not About the IP

うーん、なるほど、こんなことを考えていたな。わかるわかる。わかるし、今考えていることは確かにこの延長にもあると思うけど、違うところは違うな。たぶんこのときに考えていたのはどちらかというと、インターネットとIP(知財)による「フラットな社会の実現」みたいなことだと思う。でも、例えばお金っていうか金融ってのはまさにそれなんだよね。地球を削らなくても、人間にとって価値があるお金を増やすことができる。それはやっぱり金持ちがますます金持ちになり貧乏人はますます貧乏になるシステムで、ある程度は虚構だしファックなマネーゲームだけれど、「地球を削らなくても価値を増やす、経済を回す」という問いには答えているんだと思う、たぶん。錬金術というのはお伽噺ではなく完成していたんだな。

どうなんだろう、めっちゃ現実に戻りますけど、いまソフトウェア特許の実務の世界で何が困るかっていうとですね。特許ありすぎなんですわ日本。USやEPがソフトウェアの特許に関して大きくアンチパテントの方向に舵を切った逆をいくように、日本では特許が量産されてる。時代遅れのプロパテント。特許庁代理人にとっては権利化数も増やして各々の権利も強くした方が仕事が増えて良いんだろうけど、そうじゃないでしょ。

ほらほら中山先生もいってますよ、中山先生のいうことはいつも正しい。

"知的財産制度自体が主役なのではなく、産業や文化の担い手が主役であり、知的財産制度はイノベーション促進の脇役であるという点を忘れてはならない。"
中山信弘「知的財産立国の更なる発展を目指して」 ジュリスト(No.1405)2010.8.1-15 p.7

Jurist(ジュリスト)2010年 8/15号 [雑誌]

Jurist(ジュリスト)2010年 8/15号 [雑誌]

そのプロパテント、少なくともソフトウェアの世界では、特許庁代理人しか得してなくないですか。なくなくなくなくなくないですか。

だって実務の世界で切実なのは自分が特許とることよりも、他者の特許を踏まないことですから。誠実に事業活動しようとする産業の担い手である企業にとって、自分が権利とれることよりも他社特許の監視コストが増えるっていう方が深刻なんですよ。わかるかな。

そして一方で、スタートアップが特許とるのは良いことだと思いますけど、ぶっちゃけて言いますけど、ソフトウェアの世界で、どーしても回避できない特許、またはどーしても潰せない特許、っていうのは、ない、とはいわないですけど、すごーーーく稀ですよ。あ、ここでいってるソフトウェアってのは、あんまり技術技術してない、ビジネスモデルっぽいやつのことですよ。ハードウェアとか医薬品とかはもちろん別ですよ。

ちなみに控えめに言いましたけど、個人的に言えば、ない、ですよ。絶対に非充足の理屈が立てられないと思った他社特許。ない。事務所で代理人としてプロフェッショナルに鑑定やってた時代から、違う意味でよりシビアに他社特許をみるようになった現在に至るまで。

というわけで、USやEPがソフトウェアの特許に関してアンチパテントの方向に舵を切ったのは上手くやったなって感じですわむしろ。うらやましい。とかいっちゃいけないのかもしれないけど。

(つづく)

リバタリアニズム事始め。あるいはソフトウェア特許はリバタリアンの夢をみるか。

特許ってなんなん?(ネガディブな意味で)

発明を公開する代償として独占権を与える?インセンティブを与えないと発明が秘匿されて技術も社会も経済も発展しない?

ほんと?

世界で最も使われているOSはLinuxですけど、独占権なんて与えなくても公開されてますしおすし。

AndroidLinuxベースだしOSSだし。最も使われているOSとはつまり最も使われているソフトウェアですけど、この世で最も使われているソフトウェアがLinuxなのはそれが無料だからではなくて、高機能で安定して動くからですけど。最も先にいってるソフトウェア技術にとって特許制度は貢献しているどころかむしろ脅威になっちゃってますしおすし。

IPランドスケープ
は?

ディープラーニングブロックチェーンなんかの尖った分野ほど、特許よりもOSSや論文の世界の方が全然先にいってますけど。

…という疑問が、特許制度に対する興味の根幹にあります。

これは必ずしも特許制度なんてクソだと言いたいわけではなくて、インターネット/ソフトウェアの世界における知財制度は如何にあるべきか、どうあったら技術の発展に寄与できるのかってもっと真面目に考え直した方が良いんじゃないの、という話です。これは実務的にいえば、インターネット/ソフトウェアの世界で事業をやっていくために如何なる知財戦略をとることが誠実であるか、という話でもあります。

こういう疑問に対して感情論でなく建設的に考えたいなと思って大学院に通い始めたわけですけど、アカデミックな研究のお作法みたいなものを学ぶ中で、リバタリアニズムというのを知りました。論文として何かを主張するのに完全な客観というのはありえないし、思想の軸がないといってることがブレて説得力もなくなる、というわけです。リバタリアンというのはよくわかりませんが共感できるところが多いような気がしていて、一橋大学法哲学の講義をされている森村先生がこのスジの研究をされて本を書かれているようで、せっかくなのでいくつか読んで染まってみようかと思っています。

自由はどこまで可能か=リバタリアニズム入門 (講談社現代新書)

自由はどこまで可能か=リバタリアニズム入門 (講談社現代新書)

というわけでとりあえずこれを読んだのでメモ。

リバタリアニズムはかつてはリベラルの亜流と考えられていたが、現在ではこのように整理されていることが多い。

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(『自由はどこまで可能か リバタリアニズム入門』森村進 p.14)

個人の自由は尊重するが経済への規制や財の再分配を擁護するのがリベラル。

経済の自由を尊重するが個人への介入を擁護するのが保守(コンサバティブ)。

個人にも経済にも介入するのが権威主義(オーソリテリアン)、あるいは人民主義者(ポピュリスト)。この極端な例が全体主義で、ファシズム共産主義はココ。

そして個人の自由も経済の自由も尊重するのがリバタリアン。基本的に、国家権力に裏打ちされる不効率な官僚機構に任せるよりも、市場経済に任せる方がうまくいく、と考える。

リバタリアニズムを分類する試み
リバタリアニズムを、「いかなる国家(政府)までを正当とみなすか」と「諸個人の自由の尊重を正当化する根拠は何か」とを軸としてざっくりと分類すると以下のように考えることができる。共通していえるのは、個人の自由だけでなく経済の自由を尊重する、ということと、自己所有権というテーゼ。自身の精神と身体は、自身が絶対的な排他支配権をもつ。

正当な国家とは

個人の自由尊重の根拠
無政府資本主義(アナルコ・キャピタリズム)、市場アナーキズム
国家なんていらない
最小国家
国防、治安、裁判、最低限の公共財の供給
古典的自由主義
←に加えてある程度の福祉、サービスも提供する「小さな政府」
基本権、自然権
生まれながらにしてもつ当然の権利だから
自然権論的無政府資本主義
マレー・ロスバード『自由の倫理』
自然権論的最小国家
ノージックアナーキー・国家・ユートピア
自然権論的古典的自由主義
ジョン・ロック『統治論』
アメリカ建国の父、トマス・ジェファーソン
森村進
帰結主義
その方が結果としてみんな幸せになるから
帰結主義的無政府資本主義
デイビッド・フリードマン『自由の機構』
竹内靖雄『国家と神の資本論
帰結主義最小国家
ランディ・バーネット『自由の構造』
帰結主義古典的自由主義
ミーゼス
ハイエク
アダム・スミスミルトン・フリードマン
契約論
理性的ならそうなるはずだから
契約論的無政府資本主義
ジョン・ナーブソン『リバタリアニズムの理念』
契約論的最小国家 契約論的古典的自由主義
ジェイムズ・ブキャナン『自由の限界』
デイビッド・ゴディエ『合意による道徳』

<雑考・メモ>
・特許というのは国家による設権的権利なので、無政府資本主義の立場からは認め難いということになると思う。
・アイデアや表現というのは人格の発露であると考えれば、特許権著作権は人格権であり基本権であり自然権であるということになるんだろう。アメリカなんかは特許実務的に発明者が誰であるかってめっちゃ厳しくて、あれって自然権的な発想なんだろうなと思っていたんだけどそういうことで良いんだろうか。
知財立国を言い出した小泉政権はやたら「小さな政府」をいっていた気がするが、あれはこのリバタリアン古典的自由主義というやつなんだろうか。竹中平蔵さんはこういう分類でいうとどの辺になるんだろう。
ハイエクというのはそういえば昔本を読んでエントリを書いたな。復習してみよう。
リバタリアンにとって自己奴隷化と臓器売買の是非という頻出命題があるらしいんだけど、自己奴隷に対する森村先生の見解は、「非。なぜなら将来の自分は現在の自分にとって他人だから」。こ、これは、、、寺山修司や。去り行く一切は比喩に過ぎない。
・特許の根拠には自然権論とインセンティブ論(帰結主義?)があって、インセンティブ論では最近のOSSによる技術革新とかに説明がつかないので自然権論が盛り上がってきてる、と思ってる。それって理解できるけど、やっぱり無理矢理こじつけた感ないですかね。「特許制度は既にあるからなくすべきでない」という前提に立ってる気がする。でもよくわかんないけど残ってるものは残す、というのもリバタリアンなのかもしれない。
リバタリアン的な発想からでてくるのが裁判所でなく私的な仲介、調停サービスであるADR
リバタリアン的な発想でいくと、刑事罰廃止論というのが当然にでてくる。損害賠償だけで良い的な。ジョンロックによれば、処罰権というのも本来は自然権で、誰もが早い者勝ちで持っていた処罰権を安定性と予見可能性のために集約したのが刑事罰
・「権力は腐敗する。絶対権力は絶対的に腐敗する」。政府は悪である。政府とは、無政府資本主義者以外のリバタリアンにとって必要悪として認める悪である。無政府資本主義者のリバタリアンにとっては不必要な悪である。
特許権著作権は独占排他的な財産権であるが、ここに損害賠償請求権と差止請求権とのを認めるかというのは政策的な問題であって、例えば利用を重視するなら、損害賠償請求権を認めるが差止請求権は認めない、という制度設計は理論上あり得る。
・ジョンロックがいうような、労働の結果として表れた財物はその労働を行った人のものだという考えを適用して、発明や著作物を生み出した者はその労働の成果としての無体財産についての排他的権利を得る、、というのは、一見スジが通っているけど突っ込みどころはある。例えば耕した土地や掘り起こした鉱物や採取した果実は物理的に必然的に独占排他的であり誰かが使えば(消費すれば)他の誰かは消費できないけれども、無体財産はそうではない。誰かが使っても他の人が使えなくなるわけではないし無くなるわけでもない。やはり無体財産は本来的に財産なわけではない。法律によってはじめて財物となる。無体財産が経済的な価値を持つのは、それが法律によって独占権が与えられて人工的に希少性を与えられるからであって、そうでなければ経済的な価値を生み出さない。ここでは表現や思想としての価値の話はしていない、あくまでも経済的な価値の話。やはり改めてでてくるわけだ、無体財産とは財物か?
・IPは表現の自由に対する制約といえる
・財産権とは、財が希少であるからこそ、その財の支配権に関する争いを解決するためのルール。使ってもなくならないものや無限に複製できるものについて財産権というルールを設定するのは少なくとも自然とはいえない。→森村先生はIPを懐疑的に捉えているようだ ∵自然じゃないから
リバタリアンが国による介入を嫌う理由の一つは、独占をきらうから。独占すると進歩がなくなり、市場による自由な競争状態にあれば進歩があるはずだと考えるから。
・市場による競争というのは弱肉強食をいっているのではない。市場における交換というのは等価交換ではなくて、お互いが利益を得るプラス・サム・ゲームである。
・とすると、独占禁止法というのはリバタリアン的なのかな、、
リバタリアンというのは、個々の人間が合理的で理知的にかつ利他的に行動することへの期待というか信頼のようなものを前提としているような気はする。人間がやってることって本質的には昔から変わらないと思ってるのでこれってちょっと無邪気のような気もするけど、昔は奴隷制度とか当たり前だったけど今日ではそうではないこととかを考えると、人間って全体として賢くなってるよねといえばそうなのかもしれないな。
リバタリアンであるハイエクは、『貨幣発行自由化論』(1976年)において、民間の銀行が競争して異なった通貨を発行する制度を主張したらしい。それってICO、仮想通貨じゃん。

↑以外でとりあえず手元に集めたのは以下。夏の間にこれだけ読んでみる。

法哲学講義 (筑摩選書)

法哲学講義 (筑摩選書)

財産権の理論 (法哲学叢書)

財産権の理論 (法哲学叢書)

リバタリアンはこう考える: 法哲学論集 (学術選書)

リバタリアンはこう考える: 法哲学論集 (学術選書)

リバタリアニズム読本

リバタリアニズム読本

上記リバタリアニズムの思想をインプットした上で、改めてそういう視点で以下の「インターネット時代の知財を考える三部作」を読んでみる。

コモンズ

コモンズ

〈反〉知的独占 ―特許と著作権の経済学

〈反〉知的独占 ―特許と著作権の経済学

知財の正義

知財の正義

一橋大学大学院に入学しました ~東京で通う知財系大学院まとめ~

この春に一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻というところに正規の学生として入学しました。

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なんやかんやで知財実務で飯を食うようになってけっこう経ちますが、そもそも知財ってなにそれおいしいの、本当に必要ですかその制度、という疑問が知財に興味を持ち始めた発端としてあります。そういう、そもそもなんなの、どうあるべきなの、ということをアカデミックに考えたいなという思いはずっとありました。それでまあいろいろ事情も重なりまして、今でしょ、ということで入学することにしましたイマココ。

社会人として昼間は働きながら東京の大学院で知財を学ぶ、というと選択肢は私立4、国公立3の以下7択になるかと思います。

私立

大学 金沢工業大学 東京理科大学 早稲田大学 日本大学
知財コース 虎ノ門大学院 イノベーションマネジメント研究科 イノベーションマネジメント専攻 専門職大学院 経営学研究科 技術経営専攻(MOT) 大学院法学研究科 先端法学専攻 知的財産法LL.M. 大学院法学研究科 私法学専攻 知的財産コース
場所 虎ノ門 飯田橋 早稲田 or/and 日本橋 水道橋
平日講義開始時刻 19:00-
20:40-
18:40-
20:20-
14:45-
16:30-
18:15-
19:55-
18:30-
20:10-
1コマ講義時間 90min 90min 90min 90min
定員 40名 80名 若干名 若干名(社会人特別入試)
修了要件 1年以上在学し36単位以上を修得、必要な研究指導を受けたうえ修士論文又は特定の課題についての研究の成果の審査及び試験に合格 2年以上在学し、40単位以上を修得 / 2年次の演習科目「プロジェクト」で、グラデュエーションペーパーを作成・提出 30単位以上取得、修士論文の審査合格
学位 修士(知的財産マネジメント) 修士(技術経営) 修士(先端法学) 修士(法学)
入学検定料 30,000円 35,000円 30,000円 35,000円
最短修了学費 2,180,000円 3,140,000円 1,130,500円
(1年の場合)
1,680,000円

金沢工業大学

ネットやメディアなどに積極的に情報を出していて、社会人が東京で知財大学院いこうと思ったときに最も目にするのはここなんじゃないでしょうか。実際、ここの卒業生という方には知財業界ではけっこうお会いするし、ネットワークも強く仲が良い印象です。同窓の親睦を図る仕掛けやイベントもいろいろ用意されているようで、そこのつながりから仕事になったみたいな話もよく聞きます。弁理士試験の一部免除などもあり、もともと知財業界にいる方のみならず、これから知財業界に入っていく方にも良い環境だと思います。

東京理科大学

MIPとかMOTとか、知財立国を支援する知財系大学院の雄として多彩なコースを用意していましたが、一部縮小してより密度の高いコース群に編成しなおして再出発というイメージ。そもそも理科大出身の弁理士は多いですし、文系出身の弁理士理科大の二部に通って理工系の学位をとるという話もよくあるので、知財業界では頻繁に名前をみかける馴染みの深い大学です。

早稲田大学

今年から始まった、社会人向けを銘打った知財の大学院。平日18:15-の授業と土曜を中心に1年で修士課程を修了する集中プログラム。ただ、土曜丸々と平日1日はデイタイムを使うのがほぼ必須になるようなので、わりと身軽に動ける方向けでしょうか。家庭があったりする方には厳しいかなという気がします。早稲田キャンパスに通うのが難しい社会人向けに、日本橋のサテライトキャンパスで中継で受講できるようです。なにそれすごい。弁理士の方は、ここで学べば弁理士会派閥の一角を占める稲門弁理士クラブに入れることになりますね。

日本大学

社会人特別入試というのがあって、平日夜と土曜の受講で修了できるように組まれたカリキュラムがあるようです。知財コースは博士前記課程(修士)のみで博士後期課程はなく、弁理士試験筆記試験科目(短答式及び論文式選択科目)の免除制度に対応しています。

// 青山学院大学大学院法学研究科ビジネス法務専攻にあった知的財産プログラムは、2018年度から募集停止したようです。

国公立

大学 筑波大学 東京工業大学 一橋大学
知財コース 東京キャンパス社会人大学院 ビジネス科学研究科 企業法学専攻 知的財産法コース 環境・社会理工学院 技術経営専門職学位課程 / イノベーション科学系 法学研究科ビジネスロー専攻
場所 大塚 大岡山 or/and 田町 神保町
平日講義開始時刻 18:20-
19:45-
16:50-
18:30-
18:20-
20:15-
1コマ講義時間 75min 90min 105min
定員 30名 40名 36名
修了要件 30単位以上修得し,修士論文の審査及び最終試験に合格 40 単位以上取得、プロジェクトレポート審査および最終審査に合格 2年以上在学して30単位以上を取得、必要な研究指導を受けた上で学位論⽂の審査及び最終審査に合格
学位 修士(法学) 修士(技術経営) 修士(経営法)
入学検定料 30,000円 30,000円 30,000円
最短修了学費 1,353,600円 1,353,600円 1,353,600円

筑波大学

筑波大学が東京キャンパスでやっている社会人大学院にも知財コースがあります。校章が五三の桐で、弁理士バッジと同じなのでなんとなく親近感があります。1コマの講義時間が75minと短め。場所は大塚で、NHKドラマ「いだてん」で金栗四三が通っている東京高等師範学校があったキャンパスです。

東京工業大学

東工大にも「社会人学生に配慮」を銘打った大学院がありますが、授業は平日の15:05-、16:50-、18:30-の3コマとプラス土曜日で、平日デイタイムもある程度は大学に来れる時間をとれる方でないと行き難いかなという印象もあります。ただやはり技術系で硬派かつ孤高な圧倒的ブランドイメージを持つ東工大で、技術経営の学位をとったというのは特許業界で生きていく上で強力な印籠になると思います。

一橋大学

特許実務の現場で一橋というのはあまり馴染みがないですが、特許にこだわらずに俯瞰すれば文明開化の頃からビジネスと社会科学のフロンティアを切り拓いてきた大学です。特許の蛸壺におさまらず、MBAの社会人学生に紛れてここで実務法学を学ぶというのは、なかなか面白いんじゃないでしょうか。

教育訓練給付制度

大学院での学びが実務に直結するものであれば、けっこうな割合の学費が支給される教育訓練給付制度というのがあります。 ここにけっこう詳しい情報が載ってます。上記各コースも対象の模様。

この辺りを踏まえて、最終的には直観で選ぶ。行きたいと思ったところに行く。
入学して約1か月経ち、まだまだ生活には慣れないし予習も復習も追いついてないですが、すごく面白いです。

今年の芥川賞は仮想通貨を題材にした『ニムロッド』。読んだ

盛り上がったり盛り下がったりする仮想通貨/ブロックチェーンのテクノロジーイーサリアムもこないだ50%攻撃を食らったようですし、なんかすごそうだぞといわれながらなかなか実用化する未来はみえてこないですね。

そんなこんなで今年の芥川賞、上田岳弘『ニムロッド』は仮想通貨を題材にした小説です。そうきたかって感じですね。芥川賞という伝統文化っぽいのものと、仮想通貨というフワフワと尖ったものが並んでるってのがなんだかちょっとシュールです。面白かった。

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

単行本出てる。

文藝春秋で全文読めます。

仮想通貨について考えると、そもそもお金ってなんなんだって改めて考えるじゃないですか。旅行やらなんやらで知らない人ばかりの知らない土地でもお金があるとわりと簡単になんとかなるという体験をするとき、お金ってものすごく絶対的な価値を持ってるように感じるわけですけど。でもお金ってもともとは貝殻とかで架空的につくりあげた指標でしかなくて、抽象的な概念をみんなで共有してるということでしかない。法定通貨ってのは国家による裏付けがあるわけですけど、国家というのも抽象的な概念なわけで。そんなの一夜にしてフワッとなくなってしまったりしそうなものだけど、あんまりそういうことは起こらない。人間社会って不条理なこともたくさんありますけど、根っこのところではかなり抽象的な概念をしっかりみんなで共有してる。人間って個の命がどうだとかいっても結局のところ集合体でしかないのかもしれないなあみたいな。

ちょっと前に世界中でベストセラーになったサピエンス全史もそういう話ですよね。人間の人間たる由縁は虚構を共有する能力だ的な。

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福

この小説を読みながら、改めてそんなことを考えたりしました。

このニムロッドは、コンピュータ企業に勤めるエンジニアで、社長からある日突然ビットコインのマイニング事業を始めることを命じられた僕(38歳)の目線で語られます。主な登場人物は3人で、僕と、僕の恋人で元夫との子供を堕胎した過去をもつ彼女と、同じ会社に勤めながら小説家を志すも夢叶わずに鬱を患った先輩。

作者も同世代だし、どれもなんだか身近というか他人事とは思えない感じ。涙目のルカ的なのもあるし。世代の違う人にも刺さる普遍性がこの小説にあるのかってのは謎なんですけど、芥川賞に選ばれたってことは刺さる要素があるんでしょうね。

しかしこの作者の方、コンピュータ企業の役員やりながら小説かいてるらしいんですよね。すごいなあ。私も小説かこうかなあ(冗談です)

ちなみに作中に登場する「ダメな飛行機コレクション」はこちら→ダメな飛行機コレクション - NAVER まとめ